ベストセラー『がんばらない』の著者で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏は、チェルノブイリの子供たちへの医療支援などに取り組むとともに、震災後は被災地をサポートする活動を行っている。その鎌田氏が、いわき市で出会った高齢者カップルについて語った。
* * *
先日、僕は素敵なカップルと福島県のいわき市を旅してきた。福島を支援したいという僕の呼びかけに170人ほどが集まり、その中に、関西からかけつけてくれたカップルがいた。
彼らは、今城さんと淳子さん。今城さんは83歳、淳子さんは74歳の高齢者カップルだ。僕がおふたりと出会ったのは、5年ほど前。大勢でハワイに行き、ディナークルーズの船の中で、今城さんとじっくり話をする機会があったのだ。
夕陽が見たくて、僕が船のデッキのベンチに腰をかけていると、今城さんが隣にやってきた。
「女房が死んで寂しくてね。誰かにそばにいてほしいと思ったんですよ」
淳子さんとの出会いをこう切り出した。
今城さんの亡くなった妻は、元気な頃に、ボランティアをしていたのだという。そのサポート相手が、小児まひで、両下肢まひになって車いす生活を余儀なくされていた淳子さんだった。
「死んだ女房が知っている彼女なら、文句はいわないだろうと思ったんですよ」
もちろん、周りは大反対。そろそろ介護が必要になるかもしれない今城さんと、つきっきりの介護が必要な淳子さんである。あまりにリスクが大きいと反対されたのだ。
今城さんは負けなかった。しかし、多少の妥協はした。「籍は入れない」と家族に伝えた。それでも、淳子さんのことを考えて、簡単なお披露目をした。
「親戚や地域の人に、きちんと一緒に生活をしていることを知ってほしかったのです」
男らしい人なんだと思う。今城さんなりのケジメである。それからふたりは一緒に生活を始め、幸せな日々を送っている。
※週刊ポスト2012年11月23日号