インスタントラーメンの「袋めん」の人気が復活の兆しをみせている。昨年11月発売の「マルちゃん正麺」がそのきっかけだ。同じインスタントとはカップラーメンとどこが違うのか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
* * *
インスタントめん=袋めんだった時代がある。1950年代後半から1960年代まで――1971年に日清食品が「カップヌードル」を発売するまでの約十数年間、袋めんは圧倒的な人気を誇り、現在の約2倍の生産数量を誇っていた。最盛期の1972年には年間37億食という驚くべき数字をたたき出している。
カップめんが生産数量を追い越したのは、元号が昭和から平成に変わる頃だ。2011年に36億食を記録したのが最高生産数量である。いまだかつて、カップめんが袋めんの最高生産数量に届いたことはない。そしていまも、袋めんは年間18億食近くを年間に売り上げ、昨年2011年度には対前年比105%を記録した。
現在の袋めん人気に火をつけた「マルちゃん正麺」(東洋水産)が発売されたのは、2011年11月。さらに今年8月には「日清ラ王」に袋めんシリーズが登場し、9月にはサンヨー食品から「サッポロ一番 麺の力」が発売された。いずれも往年の袋めんを知るオールドファンが、「本当にインスタントめん?」と驚くほどだ。
そしてこの「味」こそがカップめんに対する袋めんの、最大のアドバンテージである。カップめんはほとんどが油で揚げた麺を採用している。対して、袋めんの麺は揚げずに乾燥させたノンフライの麺も多い。麺に含まれるデンプンは約80℃で糊化(アルファ化)という現象を起こす。これによって麺のもちもちとした食感が生まれるのだ。
カップめんに多い油で揚げた麺の場合、デンプンは揚げる過程でいったんアルファ化が起きる。揚げた時に麺に極小の穴ができ、そこから麺内部にお湯が浸透する。コンビニなどお湯を提供する小売店では、湯温を85℃に設定している店も多い。事前に加熱しておけば、麺の内部にお湯が到達する時点で80℃に達していなくても、食べられる程度には戻されたものになる。
ちなみにこの数年、僕にとっての不動のイチオシ即席麺は、生麺を低温で約72時間かけて乾燥させた「北海道ラーメン 旭川醤油」(藤原製麺)だ。この袋めんは、麺を乾燥させる過程で、デンプンが糊化するまで温度を上げない。沸騰したお湯でゆで続けて、初めてデンプンの糊化が麺の内部まで進む。だからこそ生めんの食感を想起させる食感が実現できるわけだ。圧倒的な旨さがネットの掲示板など、ごく一部で話題になり、首都圏でも数年前から1袋100円程度で大手コンビニでも取り扱われている。
藤原製麺のような中堅メーカーの商品が大手メーカーの棚を侵食し、棚を奪われた大手がようやく袋めんの開発に本腰を入れだした。そして他社の袋めんのヒットを見て、開発に乗り出した「うまい袋めん」がようやくこの秋に出そろったという見方は、うがち過ぎだろうか。
今年の袋めん人気はまだ序章に過ぎない。長きにわたって、目立った動きがなかった「袋めん」だからこそ、その品質にも伸びしろが期待できる。「商品開発」というメーカー本来の姿勢が反映され始めた「袋めん」が、本当にブレイクするのは来年である。