かつて、肩身の狭い思いをした“結婚しないアラフォー娘”が、家族のヒロイン(!?)となりつつある。そのきっかけとなるのが、「2.5世帯住宅」。これまでの親世帯+子世帯の二世帯住宅に、単身の子が0.5世帯として加わって暮らすという、新しい住まいの形だ。
今年8月に旭化成ホームズが「ヘーベルハウス2.5世帯住宅」として初めて商品化。団塊の世代や、団塊ジュニアに大きなメリットをもたらすとして、熱い注目を集めている。
国勢調査によると、2010年時点で、団塊ジュニアを含む35~39才の未婚率は、男性の3人に1人(36%)、女性の4人に1人(23%)。一方、離婚件数を見ると、2010年は年間約25万件で、1970年に比べると、約2.6倍も増加。男女ともに“単身者”は確実に増えていることがわかる。
住生活ジャーナリスト(「月刊HOUSING」元編集長)の藤井繁子さんは、こう話す。
「最近、団塊の世代(65才前後)と、団塊ジュニア(40才前後)、とくに母と娘の“友達親子”が増えています。娘がアラフォーといわれる年頃になっても、独身であれば親元を離れず、同居し続けるというケースが、非常に多くなってきました」
実際、世帯主が60才代の家族を見ると、2010年になり、「親+単身の子」世帯が約330万世帯で、「夫婦のみ」世帯を抜いてトップになった。旭化成ホームズ・二世帯住宅研究所の松本吉彦所長は、「親+単身の子」世帯が“2.5世帯”化するきっかけについて、こう話す。
「親と同居する単身の子は、約3分の2が女性(娘)。その女性の兄か弟が結婚し、子供ができたのをきっかけに、2.5世帯化するパターンが多く見られます。建て方としては、親世帯が頭金の一部と土地を提供し、子世帯が建物の大部分のローンを組み、単身の子は、3万円以上の生活費を入れている人が約3割います」
こうした資金配分について、藤井さんは、こう分析する。
「単身の子は、独立して一人暮らしをするよりも少ない金額で、安心して住める住まいを手に入れることができます。子世帯にとっては、姉(または妹)が家賃という形で生活費を入れてくれる分、月々のローン返済が軽減できるわけです。また、義母や義姉(妹)に子供の世話を手伝ってもらうことで、保育費なども抑えられるかもしれません。経済が低迷して、賃金が伸び悩むこの時代、若い世代にとっては経済的なメリットが非常に大きいと言えます」
一方、親世帯にとっての大きなメリットは、“安心感”。
「人生の最後を自宅で過ごしたいと思ったとき、頼りになるのは、やはり実の娘なのです。それに、若くて元気な今も、孫の世話や家事を実の娘と分担できれば、趣味や仕事の時間も作れます。本音を言うと、娘が望まなければ無理に嫁がせた先で苦労させることもない、という気持ちもあるでしょう。また、家族全員での食事や旅行も、シニア世代にとっては大きな喜び。孫も、祖父母と接することで、高齢者への理解が深まりますから、大家族での暮らしは、子供の教育にも意味があります」(藤井さん)
家族全員にとって、いい事ばかりと思われる2.5世帯住宅。親世帯と子世帯で、玄関やキッチンを別にする、娘の部屋に専用のクローゼットやドレッサーをつけるなど、独立性の高い間取りにすることも、気兼ねや気苦労を減らす一助になっているようだ。さらに、お互いがいい関係を保つには、それなりのコツもあるという。
「聞き取り調査をしたところ、“相手に気を遣わせないように気を遣う”のが、ポイントのようです。例えば、『いってらっしゃい』の後に、『どこに行くの? 帰りはいつ?』と尋ねない。そうやって相手を束縛しないことを意識しています。
なかには『見ざる・言わざる・聞かざる。でも、困っていたら助ける』と答えてくれた方もいます。無用な手出し・口出しをせず、ゆるくつながっていることが、2.5世帯的な、これからの暮らし方なのでは」(松本所長)
11月18日は「いい家族の日」。22日は「いい夫婦の日」、11~24日は「家族の週間」と、家族にまつわる記念日が続く。家族への感謝と愛情を示せるこれらの日に、“住まい”という視点から、これからの家族の在り方を考えてみるのもいいかもしれない。