韓国政府機関の女性家族部が2010年に発表した統計では、2008年、韓国の児童人口10万人当たりの性犯罪発生件数は16.9件。これはドイツ(115.2件)、イギリス(101.5件)、アメリカ(59.4件)に次いで世界4位、アジアでは1位となっている。
多発する性犯罪を少しでも減らすため、韓国政府と警察はあらゆる対策を講じてきた。女性家族部が2010年から運営を開始した「性犯罪のお知らせe」というサイトでは、性犯罪者の住所を邑面洞(市町村の意味)まで公開し、近隣住民だけに番地が記載された告知書を郵送している。今年8月には、サイト上で住所を番地まで公開する法案を推進すると発表した。
次に警察が力を入れてきたのが、電子足輪だ。これはアメリカが1980年代に導入しており、常習性が見られる性犯罪者に対してGPSの装着を義務付けている。韓国では2008年9月から13歳未満の児童への性犯罪者に対し、電子足輪を最長で10年間装着することを義務づけた。が、電子足輪をつけた性犯罪者が再犯に至るケースは後を絶たない。
ついには化学的去勢(薬物治療)まで始められた。16歳未満の子供に性的暴行を加えた19歳以上の加害者に、性的衝動を抑える薬物を投与することが認められ、今年5月に初めて執行された。最近、被害者の年齢を19歳未満まで引き上げる改正案も検討されている。
韓国世論は薬物治療を推進すべきとの意見が多い。しかし、賛否があるのも事実で、薬物に詳しい専門医には「副作用によって男性が生殖機能を失う事例もある。これは倫理的な観点で考えなければならない」という反対論もある。
児童の性犯罪などに詳しい、シンクタンク「福祉国家ソサイエティー」のアン・ジンスク氏は、韓国で性犯罪が氾濫する要因についてこう語る。
「加害者のほとんどは無職であり、カードローンなどで借金を抱えています。韓国経済は好調に見えますが、一部のエリートを除いては20代、30代の若者が安定した職業に就くことは難しく、深刻な格差が広がっている。彼らの不満が爆発し、その蛮行が弱者に及んでいるのです。韓国社会の構造を根本から改革しない限り、こうした犯罪はなくならないでしょう」
性犯罪への対応は、韓国が真の意味で先進国となれるかの指標でもあるのだ。
※SAPIO2012年12月号