5年に一度開かれる中国共産党大会では習近平国家副主席が総書記に就任。そのライバルとみられる李克強・筆頭副首相も最高指導部である党政治局常務委員に再選された。今後の政権運営や来年春の全国人民代表大会(全人代)における閣僚人事などをめぐって権力闘争が激化していくとみられる。
このため、李氏は習氏ら太子党(高級幹部の子弟)や上海閥(江沢民前国家主席派)による攻撃の“標的”となるのは必至との見方が浮上している。中国問題に詳しいジャーナリストの相馬勝氏が分析する。
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党大会における党最高指導部人事をめぐっては、米大統領選のネガティブキャンペーンに負けず劣らず、さまざまな情報工作がなされた。その典型的な例が指導者のファミリービジネスの暴露合戦だった。
まずは、重慶事件で3月に失脚した薄熙来・重慶市党委書記のファミリービジネスの実態が欧米各紙を中心に暴露された。とくに、薄氏の妻、谷開来氏に殺害されたビジネスマンが英国籍だったことから、英紙によるスクープ合戦は熾烈を極め、薄ファミリービジネスや女性スキャンダルを含めて、ダーティな実態が次々と露呈していった。
薄氏の実兄が香港で中国系銀行の最高幹部を務めていたり、香港の企業の顧問に収まって多額のアドバイス料を受け取っていたほか、谷氏の姉や妹も香港を拠点に印刷関連の大企業を経営し、中国政府機関から膨大な額のビジネスを受注したことが暴露された。薄氏自身も巨額の裏金を作っていたとの報道もあった。
さらに、米経済・金融専門通信社のブルームバーグが習氏のファミリービジネスをすっぱ抜くなど、これによって、薄氏同様、太子党に属する習氏や薄氏と近いとされる上海閥が大きな打撃を被り、胡錦濤主席ら共青団(共産主義青年団)閥から激しい攻勢を受け、劣勢に追い込まれていった。
ところが、党大会の開催間際の先月下旬、胡主席と近い温家宝首相のファミリービジネスの実態が米紙ニューヨーク・タイムズによってスクープされ、90歳の温首相の母親の株式保有など全部で24億ドルもの資産を保有していることが分かり、温首相の「清廉」とか「国父」とのクリーンとのイメージはかなりダウンした。
これは、薄氏に近い関係者によって、リークされたのではないかとの観測が飛びかっている。
党大会では最高指導部人事では太子党や上海閥が影響力を発揮したとの見方が強いが、次の権力闘争の焦点は3月の全人代の閣僚人事だ。財政相や外相、鉄道相などの重要ポストが争点で、習氏ら太子党と上海閥の連合軍と、次期首相就任が確実視される李氏を擁する共青団閥の暗闘が予想される。
そこで、攻撃材料として浮上しているのが、李氏の実弟の李克明氏だ。ブルームバーグはすでに、国家煙草(たばこ)専売局の副局長を務めている克明氏についての記事を配信。同局はたばこの販売などで巨大な利権を持ち、6千億元(約7兆2千億円)の収入がある。
首相の実弟が副局長を務めていることで、李克強氏に身内優先のダーティなイメージが定着する可能性は否定できない。同記事では米有力シンクタンクの中国問題専門家の発言として「李が首相になるなら、利害対立を避けるため実弟を別の部署に異動させるべきだ」と指摘した。
このため、温首相同様、「クリーンなイメージが強い李氏にダメージを当たるのに格好の材料」と北京の政治観測筋は指摘する。