35億2000万円――。これは2009年9月の民主党政権発足以降、今年11月5日までに支出された官房機密費(内閣官房報償費)の総額だ。このうち野田政権下で使われたのは13億3000万円。
機密費は、国内外の機密情報の収集活動などにあてられる資金で、官房長官の判断で自由に使うことができる。自民党政権時代には国会対策費やマスコミ対策費として使われたといわれている。
民主党は野党時代、官房機密費について激しく批判していた。2001年には「機密費流用防止法案」を国会に提出している。当時、党政調会長だった岡田克也氏は「戦前の遺物が残っている」と使用方法の説明を求めた。翌年には枝野幸男氏が「(機密費について)政府は情報を開示せよ」と迫っていた。
ところが、いざ政権に就いたらコロリと立場を変えた。歴代官房長官はいずれも機密費について堅く口を閉ざしている。
このカネは何に使われたのか。「相当額の機密費が使われた」(民主党関係者)といわれるのが、普天間基地移設に関する工作だ。
移設を本当に成し遂げようとするなら、機密費も必要だったろう。米国からの情報収集活動、移転候補地の地元対策にもカネはかかる。しかし結局、外務、防衛両省の抵抗で頓挫した。完全な“死に金”になってしまった。
その後の機密費はもっぱら「内ゲバ」と「増税」に使われた可能性が濃厚だ。
2010年9月に民主党代表選で菅直人氏と小沢氏が激しく争った際には、壮絶な多数派工作が行なわれた。
「圧倒的多数といわれた小沢派が切り崩された理由は資金力の差だといわれている。菅支持派の会合には官邸から軍資金が惜しみなく投入されたと聞いている」(民主党中堅議員)
野田政権の最大の政治課題は消費増税だった。当初は与野党とも増税慎重派が圧倒的で、「法案成立は針の穴に象を通すより難しい」と見られていた。
だが、官邸側が首相補佐官らを先頭に説得工作を展開すると、民主党で慎重派議員が次々に切り崩され、反対姿勢だった自民党でも長老グループを中心に法案賛成論が高まり、公明党が土壇場で賛成に転じて民自公3党合意を締結、法案は成立したのである。
自民党の増税慎重派の議員は、「わが党にもずいぶん毒まんじゅうがバラ撒かれたようだ」と、機密費の存在を示唆する言い方をした。税金からなる機密費で国民の生活を締め付ける消費増税が実現へと近づいたのだとしたら、タチの悪いブラックジョークである。
※週刊ポスト2012年11月30日号