【書評】『9条どうでしょう』内田樹、小田嶋隆、平川克美、町山智浩著/ちくま文庫/714円
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)
意表をついたタイトルで、六年前に刊行された単行本が、このたび「お蔵出し」されて文庫版となった。小田嶋隆、平川克美、町山智浩を束ねる編者であり、筆者のひとりでもある内田樹いわく、「気合いを入れて書いた本だったが、ぜんぜん書評に取り上げられなかった。どうしてかしらと思案したが、やはり書評家たちが『リスク』を避けたというのが実情ではないかと思う」(アマゾンの著者コメント)。
しかしそんな反応こそ、織り込み済みだったのではないか。なにより「護憲・改憲の二種類の『原理主義』のいずれにも回収されないような憲法論を書く」ために、この四人の論客があつまったからである。
憲法第九条と自衛隊の両立が抱えこむ「ねじれ」は、日本人の喉の奥に刺さり続ける小骨である。この違和感に気づくたび、日本人は、自らのアイデンティティに不安定感を覚えてきた。事実、尖閣・竹島・基地問題といった、中国・韓国・アメリカとの摩擦が報道されると、論客の意見は右へ左へと、振り子運動をくりかえす。
だが、内田は「矛盾した二つの要請のあいだでふらふらしているのは気分が悪いから、どちらかに片づけてすっきりしたい」という考えを「『子ども』の生理」と呼び、もし日本が大人ならば「相克する現実と理念を私たちは同時に引き受け、同時に生きなければならない」と諭す。そこで「憲法がこのままで何か問題でも?」と、二項対立構造の檻から、読者をまず解き放とうと試みる。
アメリカ在住の視点から、憲法の在り方を考察した町山は「そんなに軍隊を持ちたいなら持てばいいが、その場合は自分もちゃんと兵隊やれ」と改憲派のもつリアリティを疑い、平川は「普通の国」になりたいと主張する彼らの「理想」と「現実」の危うさを問う。小田嶋が取り組んだのは「九条の不人気傾向の原因を探るとともに、九条を再生する道」だ。そこであなたの考えは? タイトルはそう聞いているのである。
※週刊ポスト2012年11月30日号