「ツイッターのフォロワーはカネで買える」「フェイスブックの『イイネ』も買える」「YouTubeの再生回数もカネで買える」……「ソーシャルネットワークサービス」(SNS)などIT業界のホンネをぶちまけた本が売れている。題して『ソーシャルもうええねん』(Nanaブックス)。元大手家電メーカーのプログラマーで起業家である著者の村上福之氏にインタビューした。(取材・構成=フリーライター・神田憲行)
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――まずタイトルの「ソーシャルもうええねん」が現在の気分とか雰囲気を反映していて絶妙ですね。
村上:僕は大阪の商売人の街で生まれて、社会人になってからも「いらっしゃいませ、ありがとうございます」みたいな、お客さんに奉仕して売り上げもらう環境にいたんです。それがネット業界に来たら「これちゃうよね」「今まで教わってきた商売の感覚と違う」みたいな違和感を強く感じるビジネスが多かったんです。
――ツイッターのフォロワーとかYouTubeの再生回数が「買える」という話には驚きました。
村上:ネット業界の仲間からは「もう知ってる話」、業界ではない人からは「びっくりした」という反応をもらっています。ソーシャルに踊らされている人が多いんですよ。去年でもフェイスブック(FB)のファンページを作るのに制作費用が数百万円とか企業から支払われていました。普通のHPを作るのと手間は一緒なのにヒトケタ金額が違う。作ったところで誰も来ませんから、偉い人が「我が社のFBのいいね!が少ない」と怒って、大手広告代理店経由して中小のネット起業に降りてくる。
「わかりました。では100万円ください」といって、1万円で「いいね!」を何千個か買って純利益99万円で笑いが止まりまへんなー、とオーバーに言えばそんな感じのビジネスがあったりなかったりです。今は相場が崩壊して厳しいので儲からないですけど。企業だけではなく、個人もネットにカネを出す時代です。
――個人がいいね!とかフォロワーを買うんですか。
村上:コンサルタントの人で買っている人がいますね。今はモノにお金を出す人は少ないんです。お金持ちでもユニクロ着てます。でも自己顕示欲にはお金を出すんですね。
――自己顕示欲ですか。
村上:オンラインゲームがわかりやすい。オンラインゲームではユーザー同士でパーティを組んで強い敵キャラを倒すんですが、強い人がいないとゲームがなかなか進まないんです。それでカネ払って武器買って、パーティの中心になって敵キャラを倒す。メンバーから「ありがとう」「助かった」とか感謝されると、「会社には僕の居場所はないけれど、ここにはあった!」と余計はまっていくわけですよ。人は必要とされないことほど不幸なことはないですから、必要とされるためにカネを払うんですよ。不思議なことに。
――ソーシャルマーケティングはもう意味が無い?
村上:いやいや、中身がホンマに面白いものであればちゃんとバイラルしますよ(口コミで広がる)。ソーシャルマーケティングは「掛け算」なんで、中身がゼロのものにいくらなにを掛けても結局ゼロなんです。たとえば封切りの映画や新刊本で、営業がツイッターやFBで仕込んで騒ぎを起こしても三日です。それを過ぎたら「これつまらない」という本来の評価が優勢になっていく。逆に中身があればジワジワと広がり売れていきます。田舎の駅前のラーメン屋が嘘ついてネットで宣伝してもバレないかもしれませんが、消費者・ユーザーが2万3万越すようなものは、ソーシャルで仕掛けてもソーシャルでバレてしまいます。