今、“お墓で困っている人”が増えている。「田舎にあって荒れ放題」「収入が低すぎて墓が買えない」「一人っ子同士の夫と妻なのだが…」と様々な理由で頭を悩ませる人が多い中、絶縁状態の母親の死を知らされた女性はどうしたか? 作家の山藤章一郎氏が迫る。
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3歳で別れた「ぶっちゃけ他人」の母が、京急蒲田駅に近いアパートで死後10日目に発見された。70歳だった。娘のあたしは44歳。放送局勤務OL未婚。認知症を患っていた父は今春死亡。
母は弟妹とカネでもめて、絶縁状態。生活保護で暮らしてきた。墓は買えなかった。だが、別れた父は墓を買い「一緒に入ったらいいさ」とかねて提案してくれていた。あたし・大塚良子さんの話。
「まっウチの場合は、そういうわけでお墓はある。でなきゃ、あたしゃ未婚、母離婚。お墓もなくて宙に浮く。こんな人、全国にすごいいるよね。あたし30代の頃、葬式やお墓なんて考えたことなかったけど、恐ろしいわよ、大変よ。
母は転んで骨折し、動けなくなって死んでました。隣りの部屋のおじさんが発見してくれました。警察があたしに連絡くれました。あたし検死に立ち会いました。顔なんか溶けちゃってて、臭くて。警察から葬儀屋さんの車で」
のち、なんとか雑事を済ませた。すると、ひとりきりで身寄りのないあたしが死んだら、誰があたしの骨を墓に納めてくれるのかという疑問に、良子さんは行き当った。彼女はいかに処したか。
「はい、母はどうやら誰も知り合いなんていなかったみたいで、完全密葬の直葬。警察から、直に斎場へ。坊さんの拝みも、なし。火葬場で焼いてる間待つ控室料を入れて生活保護者パックの20万円で済みました。大田区が直接、搬送した葬儀屋、焼いた斎場に支払ったみたい。それから部屋の片づけ。最後だからと思って業者にやってもらったの。17万円」
衣類、食器から箪笥まで。大きいものは部屋で壊して片付けた。次いで、ネットで〈位牌と戒名パック〉を売っている寺を見つけた。2万円。戒名入りの位牌が送られてきた。別れた父が「お前らもどうだ」と離婚した母に言ってくれた通り墓を一緒にした。40年前に別れた家族がぐるっとめぐって土の中で一緒になる。
「皮肉よねえ。あたしが婿養子とって、男の子生まないとお家は断絶。あたし死んだら、誰があたしをあの墓に入れてくれるんだろ。下手すると、〈行旅死亡人〉(※行き倒れの人)と同じでしょ。官報に載って無縁仏。国勢調査にさあ、お墓の場所を書き込む欄があればいいのにね。死んだら警察が見てくれるの」
大塚さんの母も、3歳で別れた娘の連絡先を部屋に記していなければ、この世とはつながりのない〈行旅死亡人〉だった。
※週刊ポスト2012年11月30日号