国内

「EVはエコでもクリーンでもローコストでもない」と大前氏指摘

 EV(電気自動車)を取り巻く環境が激変している。電力不足が続く中、EVのために化石燃料を燃やしてCO2排出量を増やすわけだから、全くエコではない。つまり、EVに乗ってエコだと思うのは(火力発電所で化石燃料を燃やしていることを失念しているがゆえの)自己満足にすぎないと、大前研一氏は指摘する。以下は、大前氏の解説だ。

 * * *
 EVの普及スピードが鈍っているにもかかわらず、メーカー各社は「走行中にCO2やNOX(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)を一切発生しない」などと良い面ばかりを喧伝し、ローコストをアピールしている。

 たとえば『リーフ』(日産)の公式HPでは、HV(ハイブリッド車)に乗っていた時は月々1万円かかっていたガソリン代が、EVに乗り換えて不要になった、というオーナーの声を紹介している。

 それだけ読むと、EVは魅力的に見えるだろう。だが、そもそも電力会社の電気料金は高くなっているわけだから、今も安い電気で走れるとした広告は虚偽行為だ。充電スタンドや自動車ディーラーで安く充電できるといっても、その設備費用などは国の補助金やメーカーのサービスで支えられている。

 EV本体も国や自治体の補助金があるのでけっこう安く買えるが、それでも、メーカー希望小売価格は『リーフ』が376万円と406万円、『アイ・ミーブ』(三菱)は軽自動車なのに260万円と380万円もする。EVのコストが安いというのは完全に錯覚だ。原発の夜間電力と補助金のないEVは、エコでもクリーンでもローコストでもないのである。

 水力発電が主力のスイスやカナダなら、EVは意味があるかもしれない。しかし、スイスのような山岳地帯にEVは適さないし、カナダのような広大な国で充電インフラを整備するのは至難の業だろう。

 結局EVは、現状では一定のエリア内を走る循環バスや短距離のコミューター、街乗り専門のシティビークルなど特定の用途しか活躍の場はないのではないか。

 それ以外の用途では、今後何らかの画期的な技術革新がない限り、EVが広く普及するのは無理だと思う。量産できるようになれば安くなるというが、今の普及スピードでは、いつまでたっても損益分岐点にさえ達しそうにない。“究極のエコカー”として期待されているFCV(燃料電池車)も、全く同じ問題を抱えている。

 日本の自動車メーカーや経済産業省は、原発問題も含めて根本からEV戦略を見直すべきだろう。

※週刊ポスト2012年11月30日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

(左から)豊昇龍、大の里、琴櫻(時事通信フォト)
綱取りの大関・大の里 難敵となるのは豊昇龍・琴櫻よりも「外国出身平幕5人衆」か
週刊ポスト
セ・リーグを代表する主砲の明暗が分かれている(左、中央・時事通信フォト)
絶好調の巨人・岡本&阪神・サトテルと二軍落ちのヤクルト村上宗隆 何が明暗を分けたのか
週刊ポスト
過去のセクハラが報じられた石橋貴明
とんねるず・石橋貴明 恒例の人気特番が消滅危機のなか「がん闘病」を支える女性
週刊ポスト
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(写真は2019年)
《広末涼子逮捕のウラで…》元夫キャンドル氏が指摘した“プレッシャーで心が豹変” ファンクラブ会員の伸びは鈍化、“バトン”受け継いだ鳥羽氏は沈黙貫く
NEWSポストセブン
過去に共演経験のある俳優・國村隼(左/Getty Images)も今田美桜の魅力を語る(C)NHK連続テレビ小説「あんぱん」NHK総合 毎週月~土曜 午前8時~8時15分ほかにて放送中
《生命力に溢れた人》好発進の朝ドラ『あんぱん』ヒロイン今田美桜の魅力を共演者・監督が証言 なぜ誰もが“応援したい”と口を揃えるのか
週刊ポスト
大谷翔平(左)異次元の活躍を支える妻・真美子さん(時事通信フォト)
《第一子出産直前にはゆったり服で》大谷翔平の妻・真美子さんの“最強妻”伝説 料理はプロ級で優しくて誠実な“愛されキャラ”
週刊ポスト
「すき家」のCMキャラクターを長年務める石原さとみ(右/時事通信フォト)
「すき家」ネズミ混入騒動前に石原さとみ出演CMに“異変” 広報担当が明かした“削除の理由”とは 新作CM「ナポリタン牛丼」で“復活”も
NEWSポストセブン
万博で活躍する藤原紀香(時事通信フォト)
《藤原紀香、着物姿で万博お出迎え》「シーンに合わせて着こなし変える」和装のこだわり、愛之助と迎えた晴れ舞台
NEWSポストセブン
川崎
“トリプルボギー不倫”川崎春花が復帰で「頑張れ!」と声援も そのウラで下部ツアー挑戦中の「妻」に異変
NEWSポストセブン
最後まで復活を信じていた
《海外メディアでも物議》八代亜紀さん“プライベート写真”付きCD発売がファンの多いブラジルで報道…レコード会社社長は「もう取材は受けられない」
NEWSポストセブン
不倫報道のあった永野芽郁
《“イケメン俳優が集まるバー”目撃談》田中圭と永野芽郁が酒席で見せた“2人の信頼関係”「酔った2人がじゃれ合いながらバーの玄関を開けて」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! ゴールデンウィーク大増ページ合併号
「週刊ポスト」本日発売! ゴールデンウィーク大増ページ合併号
NEWSポストセブン