衝撃的な覚せい剤取締法違反で逮捕から3年、元清純派アイドルの酒井法子が芸能界に本格復帰する。再びネットでさまざまな論議を呼ぶだろうが、大人としてどのようにこのニュースに接するのが「正しい」のか。大人力コラムニスト・石原壮一郎氏が捨て身の体験談を語る。
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酒井法子が覚せい剤取締法違反で逮捕されたのは、2009(平成21)年8月。その後、裁判で懲役1年6か月、執行猶予3年の有罪判決を受けます。月日が経つのは早いもので、この11月24日には執行猶予の期間が終了。その日の午後には、復帰作となる主演舞台の稽古場で記者会見を開くことになっています。
3年前、彼女が警察に出頭した直後の日曜日の夕方、私は日本テレビ系のニュース番組『真相報道 バンキシャ!』の生放送のスタジオに、コメンテーターとして座っていました。個人的な話で恐縮ですが、そこで“マンモスかなピー”事件が起きてしまいます。
番組の冒頭に、事件のこれまでの流れと逮捕の様子を映したビデオが放送され、カメラがスタジオに戻ってきました。日本中の関心を集めているこの事件について、短い時間で何か気の利いたコメントを言わなければなりません。司会の福澤朗さんが、重々しい口調で「石原さん、いかがですか」と話を振ります。
私は迷いました。自分の立場としては「裏切られたファンに代わって憤りを示す」か「覚せい剤の恐ろしさに怯える」といったコメントが妥当かもしれない。しかし、普通のことを普通に言っても面白くないし、視聴者やスタッフに感心してはもらえません。
私は決心しました。ユーモアにくるみつつ、ファンの気持ちを代弁しようと。ニヤけないように気を付けつつ、神妙な口調でこう言いました。「いやあ、まさに、ファンにとっては、マンモスかなピー出来事ですね……」。
場が凍り付くとは、まさにあのことを言うのでしょう。司会の福澤さんと菊川怜さんの目が点になった表情は、今も忘れられません。隣りにいた河上和雄さんの表情は……怖くて見られませんでした。発言はスルーされ、番組はそのまま進行。のちに知りましたが、発言の瞬間、ネット上では「あの不謹慎なヤツは誰だ!」という怒りの声や、「いやあ、今のスベりっぷりはすごかったな」といった嘲笑の声が大量に飛び交ったようです。しかも、事件への関心の高さから、この週の放送は番組の年間最高視聴率を記録したとか。
今見ればどうってことない茶化し方ですけど、その時は元清純派アイドルの逮捕に世の中が衝撃を受けていて、深刻そうな顔をするのが大前提という空気でした。コメンテーターの役割は、世の中の空気を読んで視聴者がうなづけるコメントをすること。私のコメントは完全に失格でした。しかし、結果的にはマンモスかなピー反応でしたが、けっして後悔はしていません。リスクを恐れず、強引に特色を出そうとした自分の勇気をホメてあげたいと思います。ま、あそこまで見事にスベるとは思いませんでしたけど……。
ちなみに、それまでは定期的に出してもらっていた『真相報道 バンキシャ!』ですが、その日以来、一度も出演依頼はありません。ちょっとかなピーです。