作詞家・なかにし礼さん(74才)が食道がんの治療で受け、注目度の高い最新治療の代表ともいわれる“陽子線治療”。兵庫県立粒子線医療センター・医療部長の出水祐介さんは、その利点を次のように解説する。
「一般的な放射線治療に使われるX線は、皮膚に近いところで放射線量がもっとも高くなり、体の深部にある病巣では低くなってしまいます。対して陽子線は体の深いところで放射線量が高くなり、しかも病巣でとどまる性質を持っている。そのため、がん細胞にピンポイントで照射することが可能なのです」(出水さん)
X線による放射線治療が体へのダメージが大きいといわれるのは、がん細胞以外の正常な細胞にも放射線を浴びせてしまうから。陽子線ではこの問題が軽減され、体全体への負担も少なくてすむ。
さらに初期~末期のがんまで治療を受けることが可能。ただし、がんの種類や大きさ・位置などによって効果が変わってくるため治療を受ける前に綿密な診断が必要になる。また、胃がんや大腸がんなど消化器系は放射線を当てることで潰瘍ができやすいので向かない。
治療は専用機器にうつぶせかあおむけになり1回2~3分程度の照射を受ける。これを週5日間、2~7週間続けるのが目安だ。入院の必要もなく、照射の間は痛みやかゆみもないという。
「病巣を狙いピンポイントで照射するため照射前に体を固定します。照射している時間は体をできるだけ動かさないことが重要です」(出水さん)
最大のネックはやはり料金。陽子線を発生させるためには大がかりな装置が必要となるため、導入されている医療機関が限られると、同センター院長の不破信和さんは言う。
「専用機器を購入するために約50億円、電気代は1か月で約1200万円かかる。採算性の面ではまだまだ課題があります」
“先進医療”のため、患者の自己負担は、がんの種類、治療期間に関係なく約290万円。
「治療期間はそれほど長くないですから、この治療に合う症状と判断された場合、受ける価値は充分あると思います。陽子線治療は民間保険会社の先進医療特約の対象ですから、加入していれば高額の費用を負担せずに治療を受けることも可能です」(不破さん)
※女性セブン2012年11月29日・12月6日号