衆議院選挙は12月4日に公示され、16日に投開票される。今回の選挙の台風の目は橋下徹・大阪市長が代表代行を務める日本維新の会だ。
橋下氏はこれまで一貫して自身の総選挙出馬を否定し、11月19日には遊説先で「大阪市長のまま国会議員になれるんだったら、来年の参議院選挙のときに挑戦したい」と公職選挙法改正を前提に来年夏の参院選への意欲を見せた。大メディアに「少なくとも今回の出馬はない」と思わせた。
果たして本心なのか。見落とせないのは、こんな言い方もしていることだ。
「市長や知事の経験もないような議員が日本国家を運営することなんかできるわけがない。石原(慎太郎)前東京都知事と、大阪府知事の経験があり、大阪市も引っ張っている橋下徹に、日本国家の運営を一度任せてほしい」
国家を運営するのは総理大臣であり、過去、参院議員の首相はいない。今回の総選挙を「人生1回こっきりの大勝負」という橋下氏であれば、来年の参院選に出馬という回り道はできないはずなのだ。
橋下氏の迷いもわかる。大阪府知事から任期途中で大阪市長に転じ、今回また国政に出馬すれば2回目の任期途中転出になることから、市民の反発を懸念していることは間違いない。しかし、市民への最大公約である「大阪都構想」には霞が関が反対している。橋下氏が自ら東京に攻め上って統治機構そのものを改革しない限り、都構想の実現は覚束ない。
橋下氏の政治行動は、「進むか、退くか」の二択の局面において必ず前に進む道を選んでいる。「2万%ない」と否定した府知事選のときも、前言を覆して出馬し、死中に活を求めたではないか。
本誌は維新内部で橋下出馬のシナリオが早くから検討されてきたことを掴んだ。
橋下氏が総選挙に出馬する場合、出直し市長選が行なわれる。それに勝たなければ国政に出ても大阪の改革は止まってしまう。勝てる市長候補が不可欠だ。
総選挙準備のために地元と大阪を駆け回っている地方維新の会幹部はこう語る。
「維新の有力候補のはずの中田宏・前横浜市長の公認がまだ決まっていない。それは橋下さんが国政に出て、大阪出身の中田さんが後継市長になるという交代シナリオが検討されているからです。最終判断は公示直前でしょう」
後継市長には中田氏のほか、橋下ブレーンなど複数の候補が挙がっているというが、その中田氏は、親しい政界関係者に、「橋下さんが決断するなら、私は大阪市長選に出る覚悟をしている」と漏らしている。橋下氏の腹一つでいつでも国政に討って出ることができる態勢が整っているのだ。
※週刊ポスト2012年12月7日号