習近平氏が中国共産党総書記となり、いよいよ新・中国が始動する。緊迫する尖閣問題に、中南海からどのような指令が下されるのか。評論家の宮崎正弘氏は、新指導部が民衆の目を外に向けさせるために尖閣上陸などに打って出る可能性が迫っていると指摘する。
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中国による尖閣上陸の直接的な発端となるのは何か。第一に、悪化の一途をたどる国内経済だ。
金融危機は特に深刻で、国内融資の82%を占める4大銀行(中国工商銀行、中国建設銀行、中国銀行、中国農業銀行)の主な融資先である国有企業のうち、半数以上が赤字とされる。中でも不動産の売れ残りが約60兆円あり、潜在的な不良債権総額は最大約250兆円に達するという。日本のバブル崩壊時の不良債権が約100兆円であったから、驚くべき金額だ。
そこに反日デモが追い討ちをかけた。日本からの中国便のキャンセルは5万席に達し、現地生産の日本車の減産や投資の引き揚げで9月の経済損失は300億円に達する。
第二は人民の怒りである。欧米不況の影響で下降していた中国経済は頼みの綱である日本を失い、7~9月期の成長率は前年比7.4%と3年ぶりの低水準だった。成長率8%維持を謳う「保八政策」を掲げる中国では成長率が1%下がると500万人が失業する。経済が危険水域に達して幹部は真っ青のはずだ。
経済悪化に苦しむ中産階級は共産党幹部の腐敗に心底怒っており、一触即発のマグマが煮えたぎる。反日デモが当局のコントロール下から外れて暴走した背景は人民の怒りである。現に中国各地では一日500件の暴動が起きており、反日デモへの対応を一つでも誤れば、容易に反政府暴動に転化する。
第三は習近平の無能による。すでに多くの民衆がネット上で習を「劉阿斗」(蜀の初代皇帝・劉備玄徳の息子。愚昧の君とされ、蜀を滅亡させた)と揶揄している。次期国家主席に対して「お前の代で政権が滅亡するぞ」と言っているのだ。民衆の暴発を何より恐れる中南海は怒りの矛先を他に向けるためにも尖閣上陸を選択せざるを得ない。
問題はそれが「いつ」なのかだ。経済破綻が迫れば年内にもXデーはあり得る。新政権発足祝賀パーティーのように尖閣に侵攻するシナリオだ。しかし、眼前の経済危機がとりあえず遠のけば、尖閣侵攻は数年先になるかもしれない。
10月13日、胡錦濤政権では党中央軍事委員会副主席を務め、実質的な軍のトップである徐才厚が大連と青島を緊急視察すると報じられた。大連は空母「遼寧」の母港で、青島は尖閣に派遣される北海艦隊の拠点港である。表向きの訪問理由は「党大会を前に団結を誇示するため」だったが、尖閣上陸のための秘密作戦会議が開かれたとの憶測がある。
直後の16日午前7時ごろ、中国海軍艦艇7隻が与那国島の南南東を尖閣諸島方面に北上、一部が日本の接続水域を通過した。これらは北海艦隊所属の艦艇と推定される。国内に様々な火種を抱える中国は必ず“何か”を仕掛けてくる。そのための準備も着々と進んでいる。日本もXデーに向けた備えを怠ってはならない。
※SAPIO2012年12月号