衆議院選挙は12月4日に公示され、16日に投開票される。石原慎太郎・前東京都知事や橋下徹・大阪市長が結集した日本維新の会をはじめとする第3極に風が吹くかどうかは、民主党政権に失望し、かといって自民党の政権復帰にも期待を託せない有権者に対して、政権の受け皿を提示できるかどうかにかかっている。
新聞・テレビは第3極の各党が大同団結に失敗したと報じているが、維新と減税日本、みんなの党は多くの選挙区で候補者調整を行ない、互いに対立候補を立てない不可侵条約を結んだ。
「今回の総選挙は民自公の談合政治か、それを否定する第3極かが対立軸になる。できれば各選挙区に第3極の候補が1人ずつというのが有権者にわかりやすい。3極同士が戦って共倒れしては意味がない」(渡辺喜美・みんなの党代表)という戦略の一致があるからだ。
民主党や自民党が最も恐れているのも、選挙戦が「民自公vs第3極」の構図になることだ。
野田首相は「消費税増税の実施前に国民の信を問う」といっていたが、いまになってTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を選挙の争点に掲げた。また、民主党は「2030年代に原発ゼロ」、自民党も「原発再稼働の是非は3年以内に結論を出す」と玉虫色の公約を打ち出し、大メディアと一体になって増税の是非や原発再稼働問題から有権者の目をそらそうとしている。
政治ジャーナリストの野上忠興氏が指摘する。
「大メディアは今回の総選挙を民主、自民の2大政党の対立を軸にし、維新やみんな、生活など第3極各党はバラバラの戦いと位置づけている。これでは本当の選択肢が見えない。3党合意で消費税増税法を成立させた民自公は選挙後の提携をめざしており、いまや1つの政治勢力と見ていい。橋下、石原、小沢、渡辺、河村の5人のリーダーが『選挙は別々に戦うが、選挙後に統治機構の改革で一致できることは一緒にやる』と握手できれば、流れは変わる」
野田首相の「第3極つぶし解散」で出遅れていた候補者の数も揃いつつある。
選挙区調整ができていない小沢一郎氏の国民の生活が第一や他の第3極政党との競合はあるものの、11月22日時点で300小選挙区中、196選挙区に第3極の候補者がいる。公示までには第3極合計で自民党や民主党に互して戦えるだけの候補者が出揃いそうだ。
しかも、北海道の新党大地・真民主(鈴木宗男氏)、東北の小沢氏、北関東は渡辺氏、東京は石原氏、東海は名古屋市長から国政転出が注目されている河村たかし氏、そして九州の東国原英夫氏まで、各ブロックに第3極の代表的な候補が並ぶ中で、橋下氏が近畿ブロックから出馬すればほぼ全国に「第3極リーダー」が出現することになる。
喧嘩上手の橋下氏にとってテレビの党首討論では野田首相や安倍総裁など敵じゃない。
「安全確認がないまま暫定的に再稼働した大飯原発はいったん停止すべきだ」
「消費税を5%上げても増え続ける社会保障費にはお金は回らない」
――と持論を展開して論戦を挑めば橋下氏の独壇場だ。橋下氏1人の踏ん張りで準備不足の維新の無名候補たちは「維新」と染め抜かれたのぼり旗1つで戦うことができるようになる。
そのときこそ、維新など第3極政党の合計議席が自民党を上回って政権を取るチャンスが生まれる。
※週刊ポスト2012年12月7日号