グローバル人材が求められる日本。政府も、国際的な大学入学資格「国際バカロレア(IB)」の取得可能校の拡大に動いている。だが大前研一氏は、文部科学省の政策に首を傾げている。以下、氏の指摘である。
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いま日本では「グローバル人材」の育成が急務となっている。長引く円高とデフレなどの影響による国内の産業空洞化や景気低迷で、日本企業が生き残っていくためには新興国をはじめとする海外に打って出るしかなくなっており、その要員はグローバルに活躍できる人材でなければ役に立たないからだ。
また、これまでは親たちの多くも、子供を公務員にしたがるような「内向き志向」だったが、最近は風向きが変わってきている。ベネッセが今夏、同社の教育情報サイト上で行なったアンケートによると、半数以上の保護者はグローバル化に対応して子供に積極的に海外に出てほしいと望み、約64%が子供を海外で学ばせる必要があると考えているという。これは画期的な傾向だと思う。
そうした社会的な要請がある中で政府も「グローバル人材育成戦略」や「日本再生に向けた改革工程表」において、海外で活躍できる人材教育を模索している。その柱の一つが、世界の一流大学で認められている国際的な大学入学資格「国際バカロレア(IB)」を取得可能な学校の拡大だ。現在は国内にインターナショナル校など24校しかない国際バカロレア認定校を、今後5年以内に200校に増やすというのである。
だが、驚くべきは、それを「日本語で」取得できるようにしようとしていることだ。いったい文科省は何を考えているのか?
国際バカロレアは、インターナショナルスクールや各国の現地校の卒業生に国際的に通用する大学入学資格を付与する仕組みで、スイスのジュネーブに本部を置く財団法人「国際バカロレア機構」が定める教育課程を修了すれば取得できる。
国際バカロレアには、子供の年齢に応じて初等教育プログラム(3~12歳)、中等教育プログラム(11~16歳)、ディプロマ資格プログラム(16~19歳)があり、英語、フランス語、スペイン語を公式教授言語に定めているため、インターナショナルスクール以外での展開が難しかった。そこで文科省は、授業や試験の一部を日本語にも対応するよう、国際バカロレア機構と交渉しているという。
しかし、これは無意味である。大学受験に必要なディプロマ資格は、いわば日本の高等学校卒業程度認定試験(高認)の国際版だから、取得すればオックスフォードでもケンブリッジでもハーバードでも、受験することはできる。だが、合格するかどうかは、当然、各大学の入学試験の結果による。ディプロマ資格を取得すれば合格するわけではない。
ここに、文科省のすばらしすぎる頭脳がある。大学の試験は英語、フランス語、スペイン語なのに、資格プログラムの一部を日本語でも履修できるようにする、という発想は理解不能だ。
※週刊ポスト2012年12月7日号