労働組合から「ブラック企業のメダリスト」との汚名が着せられている企業がある。社員の大量解雇が囁かれている日本IBM(アイビーエム)だ。
「これまでに100人以上が解雇通知を受け取り、9月の1か月だけで200人という大量の退職者が出たと言われている。現在1万4000人いる社員は、いずれ1万人程度、そして最終的には5000人規模にまで縮小されるとの噂も社内で飛び交っている」(IBM社員)
現在、日本IBMではドイツ法人で大幅な人員削減を成し遂げ、“コストカッター”の異名を取るマーティン・イェッター社長指揮の下、事業整理や新たな顧客獲得などの経営改革を進めている。前出の社員によれば、その過程で余剰人員の削減を急いでいるのでは? と経営陣に対する社内の不信感が高まっているのだという。
強引な解雇手法も、労使間のもつれを大きくしている。終業時刻間際に別室に呼び出され、紙切れ1枚の「解雇通知書」を読み上げられた末にそのまま職場から締め出される――。いわゆる“ロックアウト型”の荒々しいリストラ手法は、『NEWSポストセブン』でも既報の通り(10月17日)である。
IBMに噴出する労働争議は解決の糸口を見出せないまま、司直の手に委ねられた。10月15日に同社社員3人が不当解雇撤回を求める訴訟を起こしている。年末から始まる公判を前に、11月27日には原告をはじめ、組合関係者ら350人以上が都内ホールで大規模な集会を開いた。
<許すな!「解雇自由化」ブラック企業のメダリストIBMの大量指名解雇に反撃する大集会>
と題された集会では、IBM訴訟の原告らを支援する日本金属情報機器労働組合(JMIU)の関係者らが、相次いで社内の惨状を訴えた。
「会社は就業規則の解雇要件に該当するというばかりで、その具体的内容の説明を一切拒否しています。こんなIBMのやり方がまかり通れば、他の日本企業にも『解雇の自由化』が一気に広まってしまう恐れがあるのです」(JMIU幹部)
これまでも多くの企業で「成績不良」を理由にした解雇が横行しているが、その度に争点となってきたのが労働契約法に照らした判断基準である。
「裁判にでもなれば、ひたすら労働者の成績不良や勤務態度の悪さをあげつらう会社側と、経営に支障をきたすほどではないので『解雇権の濫用だ』とする労働者側の主張が平行線をたどり、長期化するケースが多い。裁判が長引けば会社のイメージダウンも大きいので、ほとんどの“人減らし企業”が退職勧奨や配置転換で自主退職に追い込む手法を使うのです」(人事コンサルタント)
同社の広報部は一連のリストラ手法について、「係争中なのでコメントできない」としているため、会社側の主張は裁判の行方を見守るしかない。
だが、IBMのようなドロ沼劇は、他の日本企業にとっても決して対岸の火事ではない。
「例えば、業績不振に喘ぐ日本の電機業界では、全体で13万人といわれる大規模なリストラの嵐が吹き荒れています。いまや事業の再編に海外メーカーの存在も大きくなる中、IBMのようにいつまでも人材の再配置や流出をめぐってモメているようでは、再建のスピードは遅れるばかり。ますます中国や韓国勢に水を開けられてしまうでしょう」(前出・コンサルタント)