2007年の都知事選、石原慎太郎氏が「都政の私物化」という批判を受けながらも圧勝したのは、その陰にカリスマ選挙プランナー・三浦博史氏がいたからだといわれる。「謝罪」と「東京再起動」のキャッチフレーズを打ち出し、石原氏に「見事な選挙」といわしめた。
7月の山口県知事選挙では、新人4人が争った。その中に「脱原発」を前面に押し出した著名人の飯田哲也氏がいたが、三浦氏が請け負ったのは、元国土交通省官僚で原発推進派といわれる山本繁太郎氏だった。
「まず最初に、『3.11を体験した日本人にとって脱原発依存は当り前の話』からすべてのキャンペーンをスタートしました。その時点で飯田候補との争点は消えたのです」(三浦氏。以下「」内同)
結果は圧勝だった。三浦氏の主なクライアントには、石原氏をはじめ、仲井眞弘多沖縄県知事、黒岩祐治神奈川県知事など大物が多いが、一方で地方議員選挙の依頼は受けていない。
「1000票を獲る世界は、歩いて握手して顔と名前を覚えてもらうしかない。しかし、知事選や国政選挙のように10万票以上必要な戦いでは、どんなに握手しても会えるのは有権者のごく一部。そうなると空中戦が主流となるため、私の出番です。ネットは? ポスターは? 何をポスティングする? それらの戦略・戦術を駆使するのが空中戦です」
通行人が受け取りやすいよう、うちわ型の法定ビラや千社札型ポスターを始めたのも三浦氏だ。
三浦氏の戦略は、空中戦と、足で稼ぐ“ドブ板選挙=地上戦”を組み合わせるバランスが絶妙といわれる。
「都市部から郡部までを均等に回る候補者が多いが、票はお金と同じで、どこで集めても1票には変わりない。分母が1万で1割獲れば1000票増えるが、分母が300なら5割獲っても150票にしかならない。限られた短い期間で、いかに有効に1票を稼ぐかが勝負で、そのために調査をかけ、科学的な根拠に基づいて作戦を立てるわけです」
三浦氏の戦略は奇抜に見えて、実は理論に裏打ちされているのだ。それが正しいことは、勝率9割という数字で証明される。
「勝率9割というのは、それは落ちそうな人からは仕事を受けないということもある。米で勝率1位の選挙プランナー、トム・ヒュージャー氏に『どうしたらあなたのようになれますか』と聞いたら、『簡単だ。運がよくて、勝てそうな人しかクライアントにしないこと』と。それに従っているだけです」
三浦氏がつくのは勝つ候補者だというイメージも戦略の一つなのかもしれない。
撮影■渡辺利博
※週刊ポスト2012年12月7日号