本誌は43年に及ぶ国会議員生活を終える前日、森喜朗・元首相(75)にインタビューした。彼が熱望したテーマは、「ラグビー」である。日本ラグビー協会会長として思う存分ラグビー愛を。プロインタビュアーの吉田豪氏に語った。
――森さんはマスコミの世界から、政治家になった。
森:そんなつもりはなかったんだけど、大学の就職部の紹介を受けるときは「優」が何個までっていうような制限が必ずあるのよ。俺は成績が悪かったから、制限のないところを受けるしかなかったわけ。そうすると新聞社だったんだよね。
――体を壊してなかったらラグビーを続けてました?
森:いや、俺は自分で先を見るのは早いから、これはダメだなと思ったもん。大学のラグビー部に入ってみてわかった、いかに石川県のラグビーはレベルが低いのかって。高校で主将までやって、あのころはちゃんと全国紙に「優秀な全国のラグビー選手」とか書かれた中に入ってたんだよ。
だけど、早稲田に行ってみたら全然違うわな。俺も特別体が大きかったわけじゃないし、このままいてもダメだと。それでも一生懸命やってましたけど、3軍か4軍ぐらいでイライラしたりなんかしてるうちに胃がおかしくなったんだよね。
――入ってみたら豪快な人間が多かったみたいだし。
森:みんな酒は平気、女は平気だから俺はビックリしたんだよ。やっぱりレベルが違ってたな、生活レベルが石川県の田舎とはさ。だから、自分で自分を知ることが大事なのよ。あと2年、3年やって、彼らを追い抜いていけるという可能性っていうものを考えたら、これはやれないなと思って。医者に行ったら「胃潰瘍になりつつあるから、少し休んだらいい」と言われたけど、これ以上休んだらますます遅れちゃうじゃない。
それでやめる気になってブラブラするようになるんだけど、まず酒を飲み始めたのよ。そしたら先輩に「そんなことをしてもしょうがないだろ」と言われて。それで、監督の大西(鐵之祐)先生に「ラグビーやめます。だから大学もやめます」って言ったら、「バカ者! ラグビーは大事だと思うけど、ラグビーだけに人生懸けるな。くだらんことだ!」って怒られて。
「ラグビーの推薦で入ったんだから、やめたら大学をやめるしか責任を取れないじゃないですか」って言ったら、「そう思うなら、いまに偉くなってラグビーの面倒を見ろ。ラグビーに恩返しするという気持ちを持ってやったらどうだ?」って言われて。
――ホントにそのとおりになってるじゃないですか!
森:そうなったかどうかはわからんけど、その思いはずっと残ってるんですよ。
※週刊ポスト2012年12月7日号