朝から晩まで1時間60本がノルマの督促電話をかけては客から罵声をあびせられ、脅され、入社半年で体重10kg減、洗濯の時間もなく紙パンツ生活――。信販会社のコールセンターでのストレスフルな督促の仕事の裏側をコミカルに綴った『督促OL 修行日記』(文藝春秋刊)が発売2か月で5万部の人気となっている“督促OL”榎本まみさん。もともと気弱でヘタレな性格を克服し、年間2000億円を回収できるまでになった彼女に、独自の回収法やへコんだときの脱出法などマル秘テクを聞いた。
――業績最下位からどのようにして回収額を増やし、成績を上げることができたのでしょうか?
榎本さん:いちばん工夫をしたのは、かける電話の件数でした。私はどうしてもお客様に強く言えなくて、返してもらう約束をしても破られて回収率はずっと5割。うまい人は7割回収できるんです。そこで、人よりかける件数を増やせば結果的に回収金額は大きくなるんじゃないかと思いまして、普通の人の何倍かけたら回収金額が同じになるかを計算して、かける件数を増やしたら業績がだんだん上がっていきました。
――どのくらいかけたんですか?
榎本さん:通常は1時間60件ほどですけど、最終的には通常の倍くらいかけられるようになりまして、数字も上がっていきました。1日10時間くらい働いて500件ちょっとかけましたね。
――ストレスのかかる仕事だと思いますが、解消法があったら教えてください。
榎本さん:私は記録することでストレスを解消していました。お客様との会話で嫌なことがあったら、とにかく記録するんです。ポイント制にしてコレクションすると、だんだん嫌なことじゃなくて収集対象になってくるんです(笑い)。“○○ポイントで自分にご褒美”と決めていると、貯まるのが待ち遠しくなりますね(笑い)。
――襲撃予告だとか強烈なクレームエピソードも綴っていますが、いちばん印象深いのは?
榎本さん:入社していちばん最初に受けたクレームです。いきなり「今度電話してきたらぶっ殺す!」っていう(笑い)。私も慣れてなかったぶん、今思い出すと印象深くて。督促をしているとこういう電話は多いので、だんだん言われていると慣れてきちゃいますね。
――罵倒されると心が折れませんか?
榎本さん:確かに、「殺す」を自分に言われてると思うと疲れてしまいますけど、自分に対してではなく会社やお金を返せないことなど、怒りの対象は私ではないと気がつくと、普通の言葉のひとつとして受け取れるようになります。
――落ち込んだときやへコんだときの脱出法はありますか?
榎本さん:私の本を読んで「仕事が楽になりました」っていうメッセージをくださる方もいて、“他人の不幸は蜜の味”じゃないですけど、わりと他人の不幸に癒されるようなところがありますよね(笑い)。私はつらいとき、自分よりつらい体験をした人の本を読むことが多いですね。過酷な体験をした人や偉人の失敗した話を読んで、「私はまだまだ」だと(笑い)。あとは、不幸って集めていると“武器”になるということにも気がつきました。お客様に言われた悪口を収集しているうちに、言い返す言葉を学んだんです。それまで私は口ゲンカが全くできなかったんですけど、それは悪口の語彙がなくて言い方がわからなかったからなんです。嫌なことも自分の身になることがあるので、落ち込んでいる人は、不幸はぜひ武器にしていってほしいなと思いますね(笑い)。
――日常生活でも活かせる、怒っている人への対処法はありますか?
榎本さん:「ごめんなさい」をただ繰り返すだけではなく、何に対して申し訳なく思っているのかを具体的に言うと相手も“自分の気持ちをわかってくれているんだ”という実感を得てクレームにならないことが多いんです。カードが使えなくなってお店で恥をかいてしまったかたには、“カードが原因で、お店で恥ずかしい思いをさせてしまって本当に申し訳ありませんでした”というように、なぜこの人は怒っているのかを考えて、怒っている内容を具体的に挙げて謝る。日常生活でお礼を言うときでも、「○○してくれてありがとう」と具体的に感謝の理由を伝えると、人間関係を円滑に進めることができると思います。
――クレーマーになる人は、コンプレックスや短気などの性格からきている面もある?
榎本さん:私の先輩の話ですが、以前、カード会社の支店で貸付から督促まで全ての業務をやっていたときには、ひとりのお客様と対面で長くつきあうことができたそうで、最初はお店に来るときにケーキとか買ってきてくれるような良い人だった男性が、仕事か何かで失敗してしまってお金がなくなっていくにつれて、どんどん怒鳴るようになっていったというんです。お金がないと人って優しくなれないんだなと思いました。クレームを言う人も、普段はいい人でお金がないから怒っているんじゃないかなと思うときもあります。
――「お金を返して」と言わずにうまく回収する方法はありますか?
榎本さん:返してほしいときは、日付を聞くことですね。「何月何日だったら払える?」と日時を聞くと、相手の中で何日だったら返せるかなって考え始める。払える日時を言ってくれたら、「その日に取りに行くね」と言ってしまうと、いざ約束を破られてしまったときに「あなたが言ったから待ってたんですよ」と責任を感じさせることができるので、罪悪感をちょっと刺激して2回目の約束を破られにくくできます。
――日常でも活かせそうですね。
榎本さん:例えば、うっかり忘れてお金を返してくれない人にも「お金返して」と言うとカチンとさせてしまうので、「何月何日に貸してた分なんだけど、いつだったら返せる?」と言うと、「あ、借りてたっけ? ごめん」というふうに相手も言えるので円満に解決できますね。お金じゃなくて物を返してほしいときにも応用できると思います。
【榎本まみ(督促OL・N本)】
仮名。新卒で入社した信販会社でキャッシング部門の督促部署に配属。300人のオペレーターを指示するチームに入社半年、最年少で配属され、当初の成績最下位から年間2000億円の債権を回収するまでに。心を病んで次々と辞めていく同僚を見て、ストレスフルな仕事で人生を狂わせる人をひとりでもなくしたいと一念発起。研究を重ね、気弱でヘタレな性格でも言い負かされない独自の回収メソッドを身をもって開発。現在、“督促OL”6年目。