一時は業績が悪化していた日産自動車。カルロス・ゴーン社長兼CEOとともに、日産自動車の急成長の立役者になったのが志賀俊之COO(59)だ。COOを独占直撃した。
――中国市場では反日デモ、不買運動などで日系自動車メーカーが苦戦を強いられています。
志賀:現地は落ち着きを取り戻しつつあり、ショールームへの来場者数も復調しているという報告を受けています。
我々にできるのは、中国の顧客に対して、商品の魅力やサービス向上などを真摯に訴え続けることしかありません。仮に不買運動が続いて減産が長引けば、現地のサプライヤー(部品会社)やディーラーなどの売り上げにも影響し、日中の経済に大きな損失を与えかねない。早く正常化することを切に願うばかりです。
――昨年発表した中期計画「日産パワー88」では、中国を最重要市場と位置付け、グローバル戦略を立てている。今後、計画を見直さざるを得ないのではないか。
志賀:中国への期待は変わりません。成長スピードが多少鈍化しても、ポテンシャルは極めて高い。欧米と比べても財政は健全です。リーマン・ショックの時も4兆元(約56兆円)の経済対策を打ち出して内需を喚起し、世界経済を支えましたが、中国はまだ今後も財政出動できる余力がある。内需喚起は続いていくはずで、その意味でも悲観はしていません。
日産パワー88では中国以外の市場でも成長を狙っていく計画で、グローバル戦略には変更はありません。ただし投資は慎重に行なうつもりで、「(工場が)足りないから増強する」というイメージです。利益度外視で拡大戦略を採ることはしません。
――世界市場で戦うには技術力も鍵になる。かつては「技術の日産」と呼ばれていたが、最近はライバルと比べると後手に回っているようにも見受けられます。
志賀:それは心外。まったくそうは思いません。2000年から始まった「日産リバイバルプラン」以降、売上高の4%を超える研究開発費をコンスタントに投入してきたし、環境・安全、それにほぼ全車種でCVT(自動無段変速機)を搭載するなど先進技術では負けない自信があります。
――ハイブリッド車(HV)ではトヨタの後塵を拝している。
志賀:社内でもなぜHVを積極的にやらないのかという議論はありましたが、すでにトヨタは10年も前から取り組んでおり、それなら我々は二番煎じでなく電気自動車(EV)に挑戦しようと決めたわけです。新しい分野での挑戦はリスクが大きいが、そうしなければ成長はありえません。
先般、ソフトバンクの孫正義社長が米国携帯会社の買収を発表した時に「リスクをとらないことが、別の意味でもっと大きなリスクを生む」と述べていました。ゴーンCEOも「日産にリスクなどない、何もしないことがまさにリスクだ」と語っています。
1990年代までの日産がまさにそれで、同じようなタイプのエリートだけが出世して、変わった意見を述べたり空気が読めない“異端児”は排除されていたように思えます。
それが、人とは違うことをやろう、他社とは変わったことに挑戦しようという組織に変わってきたと思います。
――今後、持続的な成長を続けるための課題とは?
志賀:最も重視しているのが、ブランド力の構築です。中国で日系ブランドのトップに立っても、まだまだ謙虚に反省しなくてはならない課題は多い。以前、ドイツ車もマルク高に苦しんだ時期がありますが、それでも世界のユーザーがブランド価値を認めたことで競争力を維持してきた。どんなに汗をかいても、廉価な商品ばかり作っていては疲弊してしまいます。ユーザーが求める商品力、技術力などトータルで日産のブランド力を高めることが不可欠です。
――最後に、ゴーン氏が日産の社長兼CEOに就任して12年目になります。いつまでもゴーン氏一人に頼っているわけにはいかない。“ポストゴーン”については?
志賀:(誰がポストゴーンになるかは)私が考える話ではないですね(笑)。ただ、1人のリーダーだけに支えられた会社は、万が一の時のリスクは大きいという認識はあります。次世代を担う人材を発掘して育ててきたし、実際に多くの人材が育ってきています。組織としてもチャレンジ精神が出てきている。ゴーンがいなくなっても、昔の日産に逆戻りすることはありません。
※SAPIO2012年12月号