ストレスフルな督促の仕事の裏側をコミカルに綴った『督促OL 修行日記』(文藝春秋刊)が話題の“督促OL”榎本まみさん。海千山千の多重債務者や支払困難顧客への督促電話の仕事を通して身につけた忍耐力、交渉力を恋愛に活かす術、そして合コンに活かせる“年収スカウター”などについて語ってもらった。
――合コンでは、職業や年齢を聞いただけで相手の年収がわかる“年収スカウター”が働くということですが。
榎本さん:自然にわかってしまいますね。コールセンターで督促するときにお客様の顧客情報が画面に表示されるんですけど、その方がどこで働いていて収入はいくらかというのが全部書いてあるんです。毎日500~600件ほど見ていると、なんとなくわかるようになってくるというか(笑い)。合コンで会社名を聞くと、だいたいこれぐらいの年収かな、ピピピピ…みたいに(笑い)
――ちなみに、いま勢いがある企業はどこだと思いますか?
榎本さん:名前のあるいい企業では、30代になると急に年収が上がる方が多いんですよね。一方で、パートや契約社員の方など非正規で働いている方は、年収がそれこそずっと100万円、200万円代というふうに、二極化しています。あとは、東京でも大企業が多い地域で働いている方は、飛びぬけて年収が高い傾向がありますね。
――督促嬢たちにとって合コンでの人気業種はあるんですか?
榎本さん:そうですね…。でもやっぱり、督促をやっているとみなさん、人気業種というよりも借金をする男性かどうかで見てしまうので(笑い)。年収の高い人じゃないと結婚したくないという女性が多いと思いますが、督促をしていると、年収が高くても借金している人を見ているので、判断基準が年収ではなくなってしまいますね。それに、貸金業法で年収の3分の1まで借り入れができるんですけど、年収の高い方というのはそのぶん金額も大きくなるので、倒産やリストラなどで高額なお金を返せなくなってしまうリスクがあるんじゃないかと思いますね。ポイントは、借金していることを隠さないでいてくれることだと思います(笑い)
――督促の仕事を通して、だめんずを卒業したというのも興味深いです。
榎本さん:私も結構だめんずに引っかかっていて、本には私のことをけなす悪口系のだめんずを書いたんですけど、悪口を言われると、なんとなく相手が偉いという上下関係ができてしまうんです。でも、私は督促を始めてお客様に怒鳴られ続けてきたのでだんだん慣れてきて、どうしてこのお客さんたちは怒鳴るんだろうと、ある日突然、疑問に思ったんです。
もしかしたらこの人たちは、自分にうしろめたさがあったり自信がないから私たちを怒鳴るんじゃないかなと思い始めたら、悪口を言ってくる男性のことも、途端に上から下にストンと落ちるように理解できたんです。距離を置いて、非は自分にあるんだろうかと冷静に見つめられるようになると、だめんずと決別できるのかなと思います。
――督促嬢たちは、意外と成婚率が高いそうですが。
榎本さん:コールセンターで耐えて耐えて、最後まで耐え抜いた子って、男性に対しても寛容度が高いので、結局ゴールインするんですよね。普通の女の子だと、もうあんな人は嫌だってなるかもしれないところも、度量が広くなっているために許せるというか(笑い)。
――仕事で培った交渉力で入籍にもっていく、というのも著書にありましたね。
榎本さん:督促の仕事をしている女の子の中には、彼氏が別の女の子の元に行ってしまってもちゃんとつながっておいて、その子と別れたらまた元に戻って…と。それを2回ぐらい繰り返して、“ああ、もう俺にはコイツしかないな”と思わせて、結局結婚した人もいます。借金もそうですけど、結局100%を返してくれる人ってあんまりいないんですよね。やっぱり何回か約束を破って破って返してくれる人が多いので、最初から誠実な人を求めては、結婚できにくいのかなと思うんです。この仕事で粘りというか、交渉力は身につくと思いますね。
――最後に、仕事を通して見出したものとは?
榎本さん:私はもともと気弱で人見知りでコミュニケーションが全然取れなかったのが、社会人になって督促という仕事を与えられて荒療治じゃないですけど、思考錯誤して人並みに取れるようになったので、この仕事にすごく感謝しています。就職活動でも、人気職種に集中しがちだと思いますが、自分が本当に苦手だと思うほうに行ってみると、そこが結構ブルーオーシャン(未開拓市場)だったりするんですよね。
私が2000億円を回収できたのも、人気のない職種だったからだと思うんです。人気職種は、優秀な方の中でも特に優秀じゃないとトップに立てないレッドオーシャン(激しい競争市場)だと思うんですけど、人気のない督促などの世界だと、ちょっと努力すると意外と上にいけるかもしれないので、人気職種じゃないところで自分を試してみるのもいいかなと思いますね。
【榎本まみ(督促OL・N本)】
仮名。新卒で入社した信販会社でキャッシング部門の督促部署に配属。300人のオペレーターを指示するチームに入社半年、最年少で配属され、当初の成績最下位から年間2000億円の債権を回収するまでに。心を病んで次々と辞めていく同僚を見て、ストレスフルな仕事で人生を狂わせる人をひとりでもなくしたいと一念発起。研究を重ね、気弱でヘタレな性格でも言い負かされない独自の回収メソッドを身をもって開発。現在、“督促OL”6年目。