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日本の核武装 45年前に「不可能」と結論付けた議論の要諦

 日本維新の会の石原慎太郎代表の「核兵器保有発言」が注目を集めている。実は1967年夏、内閣調査室(当時)の外郭団体の主催の研究会で、すでにこの問題が様々な専門家を集めて議論されていた。私(神田)は研究会メンバーで国際政治学者の蝋山道雄氏(元上智大学名誉教授、故人)に、1999年、当時の研究会についてインタビューしている。この問題を考える一助とするために、その要旨を紹介したい。(文=フリーライター・神田憲行)

 * * *
 石原慎太郎氏の「核兵器」についての発言は、11月20日に日本外国特派員協会におけるものだった。いわく「日本は核兵器に関するシミュレーションぐらいやったらいい。これも一つの抑止力になる。持つ、持たないは先の話だ」として、さらに「核を持っていないと発言権が圧倒的にない。北朝鮮は核開発しているから、米国もハラハラする」と語った(毎日新聞11月20日)。

 冒頭の研究会は1967年夏、内調の外郭団体「財団法人・民主主義研究会」の主催で行われ、毎月1回の研究会の他に1968年には軽井沢で合宿も行われている。研究会メンバーは、永井陽之助(国際政治学者、故人)、垣花秀武(原子核理工学専門家)、前田寿(軍縮問題ジャーナリスト、故人)、関野英夫(軍事評論家、故人)、そして蝋山氏の5人。研究会参加当時の蝋山氏は国際文化会館調査室長で、ロンドンの「戦略研究所」に留学経験があった。研究会の結果は、「日本の核政策に関する研究(その一)-独立核戦力創設の技術的・組織的・財政的可能性」と「日本の核政策に関する研究(その二)-独立核戦力の戦略的・外向的・政治的諸問題」という2冊の小冊子にまとめられた。

 私の取材に対し、蝋山氏は、

「我々が達した結論は、日本が核武装することは、国際政治的に多大なマイナスであり、安全保障上の効果も著しく減退するというものだった」

 と語った。当時の掲載誌「SAPIO」(2000年1/26・2/9日号)から要約を引用する。

《まず技術的側面では、当時も今も、我が国が核爆弾の潜在的な製造能力を有していることは間違いない。もともと核爆弾そのものは理工系の学生程度の知識で作られるもので、材料のプルトニウムさえ手に入ればできる。当時は再処理工場ができる72年以降は可能と結論したが、現在も技術的に可能だ》

《しかし核爆弾を抑止力を持った「核戦力」とするためには、2つのステップが必要だ。核爆弾の実験と、保有・配備である》

《当時、米ソ中は自国内の砂漠で核実験をし、イギリスはオーストラリアの砂漠、フランスはサハラ砂漠で実験をした。核爆弾は実験をして世界に存在を知らしめてこそ、抑止力として働くのである。日本は63年の部分的核実験停止条約を批准しているから、水中か地下以外では実験できない。離れ小島で地下実験しようものならどんな地殻変動が起きるか予想もできない》

《さらに保有・配備にしても、我が国は国土が狭く、アメリカ、中国のように大陸全土に点綴させるのは難しい。(中略)核攻撃に耐えられる非脆弱な核ミサイルを地下格納できる場所などない》

 つまり核兵器はただ「持っている」とアナウンスするだけではダメで、実験してミサイルなどの運搬手段も「誇示」することで、初めて抑止力が働く。これは現在の北朝鮮の長距離ミサイル実験をみても現代にも通じる論理だろう。そしてそのような示威行為を行う手段が、日本にはないことも変わらない。

 蝋山氏はさらに政治的側面からの議論も紹介する。

《次に核武装することは政治的戦略的に可能か。核武装論者に共通する論法は、「もし核攻撃を受けたとき、アメリカは自国への報復攻撃を覚悟してまで、我々のために反撃してくれるのか」という「アメリカの核の傘への不信感」である。実際そう主張して、フランスはNATOから一時脱退して自前の核を装備した。この議論は今も日本では、「北朝鮮が攻めてきたとき、アメリカは本当に守ってくれるのか」という「安保不信論」に形を変えて存在している》

《私から言わせれば、これは核武装せんがための「理屈」であり、「抑止力」についてまったく理解していないものだと言わざるを得ない》

《というのは、抑止力とはこちらが「実際に反撃する可能性」ではなく、相手に「攻撃させないもの」だからである。実際に我が国にテポドンが撃ち込まれてから、いくら米軍が反撃してくれても我々にとってなにも有り難くはない。撃たせないことが抑止力の意味なのである》

《だから検証しなくてはならないのは「アメリカの意思」ではなく、敵国(仮に言えば当時は中ソ、今は北朝鮮)がアメリカの核の傘を十分に意識しているかどうか、つまり、抑止する側とされる側相互間の心理作用が重要なのであって、実は傘の下にいる者がどう思うかはさほど重要な要素ではない。そして現に他国からの攻撃が戦後50年以上に渡ってない以上、核の抑止力は十分に機能しているといえる》

《また開発には莫大な政治的エネルギーが必要だ。まずアメリカが強い不信感を持つ。彼らの伝統的な太平洋戦略はこの周辺に自らと肩を並べる強大な国を作らないことである。日本と中国を天秤にかけつつ両者の肩を押さえていく。だから日本が軍国主義をむき出しにした際は蒋介石を援助し、中国共産化のあとは日本を後押しした》

《当時は、日本が核兵器を持てば、アメリカをかえって中国の側に追いやるという結論だった》

《さらに、世界中の国も敵に回す可能性も指摘された。アメリカの反対を押しのけても、核を開発するためには核実験禁止条約など関連条約から次々と脱退しなくてはならない。それがもたらす四面楚歌の状態は第1次世界大戦後の国際連盟脱退の比ではない。他の核保有国はすべて日本を仮想敵と見なし、カナダやオーストラリアといった国も日本に厳しい視線を浴びせるだろう。議論した68年は終戦からまだ20数年しかたっておらず、侵略国から変異した日本の政治が誰からも信用されていたわけではない。そこで核武装すれば「またか」という舌打ちは当然あるだろう、と予想した》

 石原氏は北朝鮮が核を持つからこそ国際社会に発言権があるかの如く語っているが、ここでの分析は核兵器保有が国際社会からの孤立を招く、ということだった。

 蝋山道雄氏が私に重ねて強調していた。

「情緒的な平和主義的イデオロギーから日本の核兵器保有を反対しているのではなく、国際政治のリアリズムからの反対論なんです」

 古い議論と切り捨てずに、核兵器問題を考える一助になるのではないだろうか。

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