セブン‐イレブン・ジャパン(以下セブン)飲料・加工食品部で飲料・酒を担当する武藤正憲(40)は販売現場を知り尽くした男だ。入社以来、店舗経営相談員を経験した後、群馬、新潟、北海道地区の商品開発を担当し、商品本部に異動。サンドイッチ、カップラーメンなどの商品開発を担当してきた。現行の酒類の担当になってからは1年半。「一度決めたら最後までやり抜く」が信条だ。
武藤に限らずセブンの商品開発担当に染み付いているのが「いかにお客様視点でものを見るか」ということ。一見、同じような佇まいのコンビニだが、取り扱う商品はかなり異なる。
今では季節を問わず、当たり前になったおでんを初めて導入したのもセブン。だしや具材を地域により変えるなど進化と工夫は今も続けられている。専門店の味わいをリーズナブルな価格で提供する『セブンゴールド』もそうした意識が生んだものだ。
武藤はビールに関して思うことがあった。
「ビール市場は年々縮小し、新製品は新ジャンル(第3のビール)がほとんど。でも、美味しいビールを出せば売れるのではないかと思っていました」
確かに、現在宣伝費が投入される新商品は各メーカーとも第3のビールが主流。本格的なビールの新商品は少ない。ビールファンにとっては寂しい日々が続いていた。武藤はそうした状況に風穴を開けようと思ったのだ。武藤が思い描いたビールは「コクがあってキレもある」ビール。
「日本酒なら淡麗で辛口、焼酎もすっきりしたフルーティーなものが売れる時代です。ビールも同じだと思っていました。1日仕事して、疲れ切った体をキレとコクがある味わいが癒やしてくれる。そんなビールが自分でも飲みたかった」
コクのあるビールを目指すのならば、麦芽の量を増やせば良い。何度も試作が繰り返され1.8倍で落ち着いた。これ以上多くても、少なくてもいけないというギリギリの調整だった。もちろん麦芽100%。飲み応えを重視してアルコール度数も6.5%にした。
「やるなら、これを前面に打ち出したい。お客様にも飲んですぐに“なるほど、コクとキレはこういうことか”と感じてもらいたい。ビールの価値は味です」
武藤の意見に、アサヒビールも応えた。麦芽は単に量を増やすだけでなく、よりうまみとコクが得られやすいよう、種類も厳選した。こうして完成を見た『アサヒ ザ・エクストラ』は、深いコク、上質なキレに加え、華やかな香りまで得ることになった。
「我々が期待した通りでした。アサヒビールさんの『コクキレ』の技術は強かった」
これだけ、手間とコストをかけながら販売価格は215円に設定された。
「この味をこの価格で、という値ごろ感を出すのも非常に重要です」
セブンの心意気に消費者は敏感に反応する。9月25日発売開始、数量限定販売だった『アサヒ ザ・エクストラ』はあっという間に店舗から消えた。数量限定売り切り次第終了の予定だったが、人気に応えるために11月下旬からセブン・イレブンの一部店舗で販売を再開するという異例の展開になった。
(文中敬称略)
●取材・構成/中沢雄二
※週刊ポスト2012年12月7日号