蟹江ぎんさんの娘ご長寿4姉妹。一緒に住んでいて仲の良かった長女の年子さん(98才)と三女の千多代さん(94才)だったが、お風呂にお湯が入っていなかったことに年子さんが腹を立て、千多代さんと口論に。それをきっかけにふたりは口を利かなくなってしまった。
お風呂の件で大ゲンカした翌朝、年子さんは実家の蟹江家に向かった。
五女・美根代さん(89才):「えらい朝はように、あんねぇ(年子さん)が仏頂面でやってきて、いったい、どうしたんかとびっくりしただがね」
“もう、千多代のところにはおれん”と言う年子さんに、美根代さんはしばし言葉を失った。だが、末の妹ながら4人姉妹をまとめるリーダー的な存在。千多代さんの考えも聞いて、
「うん、こうなったら、ごちゃごちゃ言わんと、離れたほうがええ。しばらく冷却期間を置いて頭を冷やさんといかん」
美根代さんはそう判定を下した。こうして、あんねぇは息子夫婦の家に帰っていった。
その数日後、シーンと静まり返った家を訪ねた本誌記者。このままふたりは別居してしまうのか…気にかかり、4姉妹と連絡をとっていると、意外な展開が待っていた。
「わがままで、自分勝手なことばかり言うあんねぇがいなくなって、ああ、清々したわ」
生来の意地っ張りから、千多代さんは当初、そんな強がりを見せていた。掃除、洗濯、炊事と、家事もいつもより張り切ってこなした。
だが、10日たっても、年子さんは戻ってこない。千多代さんはご飯を食べるときもひとりになり、夜、布団を並べるのも1枚。
千多代さん:「昼間は美根代の家に行けば気がまぎれるだが、夕暮れ、家に帰るとね、あんねぇの姿がどこにもない。無性に寂しくなって、庭に出てお月さんを眺めたこともあったよ。そしたら通りの向こうに、家々の明かりが見えて、“ああ、あの家じゃ、みんな楽しそうに晩ご飯を食べてるんだろなぁ”と思うと、ひとりでに涙がこぼれたよ」
日を追うごとに、胸にぽかーんと穴が開くような寂しい気持ちになっていった。
美根代さん「千多代姉さんは、家に来るたび、あんねぇの話をするようになったがね。“あんねぇは今ごろ何しとるだろか”“ちゃんとご飯食べとるだろか”“嫁さんと上手くやっとるだろか”って、そんな心配ばかりしとった」
そして、年子さんが出ていって2週間ほどがたったときだった。千多代さんは珍しく風邪をこじらせ、38℃台の熱が出た。病院で薬をもらい、2日ほどで熱は下がったのだが、体はまだふらふらの状態。
洗濯物を干すため庭先へ出ようとすると、次の瞬間、自分でも何が起こったのかわからないままに転倒。ふーっと我に返ると、左の手首に鈍痛を覚えた。
時間がたつにつれ、ズキンズキンと激痛が走るようになった。それでも、<人間、大事なのは気力だがね>と言う母・ぎんさんの言葉を思い出した千多代さんは、左手首に湿布薬を貼り、その上からテープを巻いて2日ほど耐えた。
だが、痛みは一向に引かない。
美根代さん:「訪ねたら、左手首がテープでぐるぐる巻きだがね。もう、びっくり仰天して、万里と医者に連れて行ったら、“剥離骨折で全治4週間です”と言われて、まーた、ぶったまげたがね」
四女・百合子さん(91才):「頭をぶつけんでよかったよ。それにしても、骨折しとるのに湿布薬で治そうとする94才だなんて、無茶すぎるだが(笑い)」
しかし、禍転じて福となす。千多代さんが骨折したという知らせを聞いた年子さんが、「大丈夫かぁ」と、千多代さんの元に飛んでやってきたのだ。
年子さん:「離れてるとな、千多代のことがやっぱり毎日気にかかっとった。それが、骨折したっていうがね。もうケンカしたことも頭から吹っ飛んで、“私が助けるぅ”って、すぐに千多代の家に戻ることに決めたがね」
こうして3週間ほどの別居を経て、無事に仲直りしたふたり。今は、掃除、洗濯、炊事をひとりでこなしてくれる年子さんに、千多代さんは感謝することしきりだ。
千多代さん:「やっぱり、こん人(年子さん)がおってくれたほうが、毎日楽しいよ」
年子さん:「私の帰るとこは、ここしかないと思うた。今でもケンカはするけど、それは仲が良いからだが」
千多代さんのギプスも間もなく取れる見込みだ。
百合子さん:「なんだかんだ言うても、私ら4人は顔を見合わせて、わいわい、ギャアギャア言い合う居場所があるからいいの。そいだで、これからも仲良く、ときどき、ケンカもやりましょう(笑い)」
年子さんと千多代さんの顛末は、4姉妹の絆を改めて強くしたようだ。
※女性セブン2012年12月13日号