次期衆院選に向けて動きを加速させている「日本維新の会」の橋下徹氏。だが、「全国政党になるという考え方をいったん白紙に戻すべきだ」と指摘するのは、“橋下氏の場外応援団”を自任する大前研一氏である。
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国政の行方を考える時にポイントになるのは「統治機構を変更できるかどうか」である。
これは既得権益を破壊される中央官僚が絶対に嫌がることなので、血みどろの戦いになる。次期衆院選は今のままでは自民党が政権に返り咲く可能性が高いが、これまでの言動から見て安倍総裁にこの戦いの旗振りは不可能に思える。古き良き日本の復活、すなわち、より強い戦前の政治体制への逆戻りが彼の今までの言動だからだ。
石破茂幹事長は中央集権維持派ではないと思うが、防衛と農林水産の「族議員」であり、小さな政府を掲げて霞が関全体で官僚の抵抗を打ち破る突破力を持っているとは言えない。また、テレビ解説者のような役割が長かったせいか、「解説」するばかりで、「どういう国を作りたいのか」というビジョンは今までに打ち出していない。
その意味では、たとえ道を誤って人気を落としたとはいえ、橋下氏は希有な政治家だ。
統治機構を再構築するための「維新八策」を掲げ、勉強熱心で理解力も記憶力も行動力も図抜けている。毎日午前2時頃まで仕事を続けて午前6時頃からメールを打ち始めるパワフルさも尋常ではない。この能力がなければ、頑強な官僚機構は打破できない。だからこそ、私は今も彼に期待している。
しかし、今の橋下氏は目前の衆院選にこだわるあまり、着地点の目線が低くなったように思う。彼は親しい友人に「ゼロから始めてここまで来た。戦略が間違っているとは思わない。このまま行けるところまで行く」という言い方をしているという。もしゼロになっても元に戻るだけ、ということかもしれないが、それでは困る。
国民に期待を抱かせた以上は、それを実現する責任がリーダーには生じるのである。次期衆院選で維新が惨敗して崩壊したら、日本はまた10年以上、変革のチャンスを失うかもしれない。維新を徒花に終わらせないためには、橋下氏自身が変わらなければならないと思う。
橋下氏の良さは「変わり身の早さ」である。ロボット掃除機『ルンバ』のように、障害物にぶつかると即座に向きを変えて違う方向に進む。彼自身も「自分と維新の会の強みは、間違っていたらすぐに謝って方向を変えることだ」と言っている。ならば国政進出の戦略も、今すぐ転換すべきではないだろうか。
※SAPIO2012年12月号