みちのくの160キロ右腕の心は揺れている。一度はメジャーリーグ挑戦を表明していた大谷翔平(18、花巻東)が、ドラフト1位指名を受けた北海道日本ハムファイターズの畳みかけるような交渉術を前に、迷いに迷っているのだ。
日ハムの栗山英樹監督が直接交渉に乗り出した11月26日、大谷は現在の心境をこう話すにとどまった。
「栗山監督は、ひとりの野球選手として、一緒に将来の進路を考えてくれた」
栗山監督は、大谷との交渉については、これまで当たり障りのない内容しか明かしてこなかった。しかし、親しい記者にはこう漏らしていた。
「あくまで個人的見解だけど、うちだったら3年後のポスティング移籍も容認するかもしれない。来る可能性は低いかもしれないけど、ぶつかってみる価値はある」
3年だけうちのチーム(日本ハム)にいてくれればいい――そうも読み取れる栗山監督の発言は、野球協約のグレーゾーンに踏み込むものだ。
現行の野球協約では、18歳で入団した選手の場合は、累計9年の1軍登録でFA(フリーエージェント)となり海外移籍が可能となる(国内移籍は8年)。
しかし、ポスティング移籍であれば、年齢も在籍年数も1軍登録の日数も問題にはならない。もちろん、日ハムがそんなカードを切れば、日本球界も黙っていないだろう。前例ができれば、今後、若手選手のメジャー流出を加速させかねないからだ。
大谷が翻意して日ハムに行くならば、指名を断念した球団からの反発も当然予想される。そうした道を選択した大谷には、マイナーリーグで過ごす以上の困難が待ち受けているかもしれない。
だが、前出のオフレコ話で、栗山監督はこう反駁するのだった。
「いや、そうは思わないね。(育成に定評があり、スタッフに海外球団の経験者が多い)ファイターズに進むことが彼にとって厳しい道になるとは思えない」
いずれにせよ18歳の決断に、日本球界の未来も左右されそうだ。
※週刊ポスト2012年12月14日号