スポーツ

元SB小久保裕紀 苦しい時期でも『エヴァへの道』が支えに

球界屈指の読書家として知られた小久保裕紀氏

 福岡ソフトバンクホークスの小久保裕紀(41)が、今季限りで19年間の選手生活にピリオドを打った。

 実は彼は、球界屈指の読書家である。現役時代には1000冊以上を読破。遠征先への移動の車中、試合前のロッカールーム……少しでも時間の余裕があれば本を開いていたという。

「ナイターの場合、試合前の16時から20分間を、読書の時間に当てていたこともありましたね。知らないことを本から学びたいという欲求が強かった。もし読書をしていなければ、19年も現役を続けて、ここまでの成績は残せなかったと思います」

 通算2031安打、413本塁打という輝かしい選手生活を送ったが、その一方で、度重なる怪我を含め、幾度も窮地に立たされている。困難に立ち向かった時、小久保はどのような書籍を手に取り、その中のどんな言葉に解決のヒントを得ていたのだろうか。

 まず自宅の本棚から選んだ本は、『エヴァへの道』(船井幸雄・著)。彼が読書好きになるきっかけとなった1冊だ。

 入団1年目の1994年からレギュラーに定着した小久保は、2年目には本塁打王のタイトルを獲得。プロ野球選手として順風満帆のスタートを切った。

 しかし、本人曰く「天狗になっていた」というその年のオフに、慢心から、ゴルフや飲み会三昧の怠惰な生活を送ってしまう。そのツケはすぐに3年目1996年の成績に表れ、打率は2割5分を切るほどに低迷した。

「このままじゃダメだと本当に悩みました。その時、偶然にも、1週間のうちに別々の知人から『エヴァへの道』を薦められたんです。手元にある2冊の同じ本を見た時、何かのお告げだと思って読み始めました」

 ちょうど、アマチュア時代から師事していた打撃技術のコーチと袂を分かった時期とも重なり、何かにすがりたい気持ちが強かったという。

「それまではたまに推理小説を手にするくらいだったので、初めは何が書いてあるのかよく理解できませんでした。でも何か自信を持ちたかったから、無理矢理にでも最後まで読み切りました。

 心に残っている言葉は、『必要・必然・ベスト』です。どんな嫌な出来事も、前向きに考えることによって、その出来事が自分に必要であり、必然であり、起きて良かったと思えるようになる。野球人生の中で、この言葉には何度も助けられました」

 1997年オフ、確定申告を依頼していた経営コンサルタントを介して脱税をしていた事実が発覚し、小久保を含めた数人のプロ野球選手が刑事告訴された。その処分のため、翌1998年は開幕から8週間出場停止。右肩の手術も経験し、わずか17試合の出場にとどまった。プロ野球人生で最悪の年だった。

「当然罪に関しては罰を受けなければならない。ただ自分の心の中では、この事件も自分にとって『必要・必然・ベスト』なんだと考えるように努力しました。周囲から『小久保にもそんなことがあったんだね』と思ってもらえるくらいまで頑張ろうと思えたのは、この本のおかげです。

 それから、2003年に選手生命を左右するような膝の怪我をしてしまい、ジャイアンツに無償トレードになった時も、この本が活きた。世間では大きく騒がれたけれど、自分は前向きに捉えられましたからね」

取材・文■田中周治 撮影■藤岡雅樹

※週刊ポスト2012年12月14日号

関連記事

トピックス

『マモ』の愛称で知られる声優・宮野真守。「劇団ひまわり」が6月8日、退団を伝えた(本人SNSより)
《誕生日に発表》俳優・宮野真守が30年以上在籍の「劇団ひまわり」を退団、運営が契約満了伝える
NEWSポストセブン
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン
貴乃花は“令和の新横綱”大の里をどう見ているのか(撮影/五十嵐美弥)
「まだまだ伸びしろがある」…平成の大横綱・貴乃花が“令和の新横綱”大の里を語る 「簡単に引いてしまう欠点」への見解、綱を張ることの“怖さ”とどう向き合うか
週刊ポスト
インタビュー中にアクシデントが発生した大谷翔平(写真/Getty Images)
《大谷翔平の上半身裸動画騒動》ロッカールームでのインタビューに映り込みリポーター大慌て 徹底して「服を脱がない」ブランディングへの強いこだわり 
女性セブン
映画『八日目の蝉』(2011)にて、新人俳優賞を受賞した渡邉このみさん
《ランドセルに画びょうが…》天才子役と呼ばれた渡邊このみ(18)が苦悩した“現実”と“非現実”の境界線 「サンタさんを信じている年齢なのに」
NEWSポストセブン
アーティスト活動を本格的にスタートした萌名さん
「二度とやらないと思っていた」河北彩伽が語った“引退の真相”と復帰後に見つけた“本当に成し遂げたい夢”
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、小泉家について綴ります
《華麗なる小泉家》弟・進次郎氏はコメ劇場でワイドショーの主役、兄・孝太郎はテレビに出ずっぱり やっぱり「数字を持っている」プラチナファミリー
女性セブン
調子が上向く渋野日向子(時事通信フォト)
《渋野日向子が全米女子7位の快挙》悔し涙に見えた“完全復活への兆し” シブコは「メジャーだけ強い」のではなく「メジャーを獲ることに集中している」
週刊ポスト
1966年はビートルズの初来日、ウルトラマンの放送開始などが話題を呼んだ(時事通信フォト)
《2026年に“令和の丙午”来たる》「義母から『これだから“丙午生まれの女”は』と…」迷信に翻弄された“昭和の丙午生まれ”女性のリアルな60年
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト