鮨屋の実力が試されるのは、魚の扱いだけではない。職人の実力が推し量られるのが「玉子焼き」の出来だ。
江戸前の玉子焼きは、玉子に白身魚やシバエビなどのすり身を大量に投入する。だしと砂糖と塩を溶き玉子と合わせて焼いたただのだし巻き玉子とは雲泥の差が出る。「最初に玉子焼きを頼む」という通も多いようだが、そんなルールはないので好きな時に頼めばいい。
そして、いい鮨屋はどこも「かんぴょう」にこだわる。かんぴょうは、ユウガオの実を削って乾燥させたもので、鮨屋ではそれを甘辛く煮付けて客に提供する。河岸で出来合いのものを購入して済ます店も多い一方、心ある職人たちはうまいかんぴょう作りに苦心している。
絶妙な味わいのかんぴょうを煮るのはそれだけ難しい作業で、「かんぴょうの味と歯ごたえが素晴らしいかどうかが名店の基準」と断言する通もいるほどだ。ちなみに全国生産量の90%超が栃木県産。かんぴょう発祥の地が摂津国木津(現在の大阪府浪速区)といわれることから、かんぴょう巻を「木津巻き」と呼ぶ通もいる。
伝統的な江戸前の鮨ではタネに下処理をする。刺身を切ってシャリの上に乗せるだけの鮨とは根本から異なるものだ。その技法が江戸前を標榜する名店の真価。知っておきたいのが「ツメ」(煮詰め)と「煮きり」。
醤油や酒、みりんなどから作り刷毛でタネに塗るタレで、一般に「ツメ」はアナゴやシャコ、煮ハマなどに塗る甘く濃厚なもので、「煮きり」はコハダやヅケなどに使うサラリとしたもの。最近では客が醤油をつけすぎることで鮨の風味が損なわれることを避けるため、最初から煮きりをつけて提供する鮨店が増えている。
※週刊ポスト2012年12月14日号