歌舞伎俳優の中村勘三郎さんが5日、急性呼吸窮迫症候群のため東京都内の病院で亡くなった。57才だった。そんな中村さんは生前、幅広い交友関係で知られ、多くの人から愛されていた。勘三郎を襲名した直後の中村さんのエピソードをここで振り返る。(女性セブン2005年5月12・19日号より)
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「おでんの大根みたいなものですよ。襲名初日の口上のときは、つゆにいれたてでまだ味が染み込んでない。それがやっと“勘三郎”という具に、つゆが少し染みてきた感じですね。これもみなさんのおかげです」
2005年3月3日に十八代目中村勘三郎という大名跡を継いで1か月余り。新・勘三郎はこんな風にいまの気持ちを例えてくれた。
襲名披露公演は連日大入り満員で、東京・歌舞伎座4階にある当日売りの自由席である幕見席も、歌舞伎通が「こんなに並んでいるのは見たことがない」というほど、早朝からチケットを求める客で行列ができている。
そんな大人気の勘三郎が襲名の直前まで「スポーツニッポン」紙上で連載していた『勘九郎かわら版』が『襲名 十八代 これからは勘三郎からの恋文である』(小学館)として出版された。
「歌舞伎っていうのはね、庶民の娯楽なんですよ。一部の特定の人たちのものじゃない。ですから、この本を通じて多くの人に興味を持ってもらえたら、こんなに嬉しいことはないね」
東京・浅草でのテント公演が話題になった「平成中村座」や、昨年のニューヨーク公演の舞台裏から、各界の友人たちとの興味深い交友録まで、知られざるエピソードが満載だ。中には勝新太郎さん(享年65)や大地喜和子さん(享年48)など故人との思い出を語ったものもあり、ホロッとさせられる話も。例えば、明石家さんまとのかかわりも面白い。
<子どもの頃に出た、芸能人運動会で僕が選手宣誓をしたんです。その時、僕は笑いを取ろうと思って『先生(宣誓)、おしっこ』って言ったのよ。それを奈良県でテレビを見ていた彼の両親が大ウケ。こんなつまらないギャグでこんなに笑うんだったら、俺の方がよっぽどおもろいでって、さんまさんがお笑いの道に進む決心をしたっていうんだから>
ニューヨーク公演には、ハリウッドスターたちも足を運び「アメージング」(びっくり)「スペキュタキュラス」(すごい)と“素晴らしい”の意味のなかでも最高級の賛辞を寄せた。
日本からも、大竹しのぶや唐沢寿明、江川卓ほか、多数の友人も見に来てくれた。また、ニューヨークにいた郷ひろみや宇多田ヒカルも足を運び、宇多田は初めての歌舞伎に感動して泣いたという。
また、ある賞の授賞式で、皇居での食事会に招かれたとき、緊張もあっておいしいワインを飲みすぎ、皇太子妃・雅子さまに「奥さん、奥さん」と声をかけてしまい、一同大爆笑となったエピソードなど、その芸の幅と同様、話題も幅広い。