【書評】『少しだけ、おともだち』朝倉かすみ/筑摩書房/1575円
【評者】鴻巣友季子 (翻訳家)
女同士の腹の探りあいや瀬踏みというのだろうか、微妙な心理戦は、幼稚園時代から老年期まで続いていく。そうやって牽制しあい、時には腹を割って話し、話したとたんに後悔してまた後ずさり、そうこうするうちに時は流れ日は過ぎて、女と女はいつでも「少しだけ、おともだち」のままだ。
八篇を通じて、各主人公はちょっと意地悪な目をもちながらも人がよく、集団からなんとなく敬遠されている同性と付き合う。たとえば、恵まれた家庭で育ってビスクドールを自慢するけど貸してくれない年長組のお友だち。東京で有名なアーチストになりたいという博識だけどイヤミな級友。「空想のお財布」をもつ弁護士の美人の奥さん。愛想はよいのに堅物に見える五十歳の図書館の同僚……。
じつは主人公も不倫の痛手を引きずっていたり、人に言えない罪を抱えていたり、寄る辺ない身なのだ。女たちの一人は言う。「なにもかも思った通りじゃなかったんだよね」「でも、あたしがなにを思って(願って)いたかは、そのとき、すでに思い出せなかったんだ」
旧友が今年はどんな「札」を出してくるか、年賀状は女のトランプ勝負だという説があるが、本書の一篇「グリーティングカード」の切なさは、女性なら誰しも思い当たるだろう。たとえ人生下り坂でも、女はつねに「厳選した」ハイセンスなカードを友だちに送り、明るく「元気してる?」と訊く。また、「ほうぼう」という篇は本書中でもいちばん怖い!
新婚夫婦がハネムーンの写真を眺める仲睦まじい情景に始まり、妻は旅行で出会った年恰好や夫の職業もよく似た夫婦のことを回想するが、さて、二組の夫婦の正体は? 淡い友人関係が心のうちで恐ろしく濃密なものに転じていく。不気味さがじんわり染みる。
小さいけれど消えない棘の痛みの数々。朝倉かすみは、今回も女の(本当はあまり表沙汰にしたくない)心の隅にやさしく、容赦なく、光をあてる。あらゆる角度からチクリチクリと刺されて、いや、もうまいりました!
※週刊ポスト2012年12月14日号