白澤卓二氏は1958年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授。アンチエイジングの第一人者として著書やテレビ出演も多い白澤氏が、前立腺がんと、肉の調理法の関係性を解説する。
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がんは、日本人の直接の死亡原因の第1位として今も患者が増えているが、すべてのがんが増加しているわけではない。胃がんや肝臓がんによる死亡率は下がっているのだが、それを上回って、その他のがんの死亡率が上昇しているのだ。
その中でも増加率が最も顕著なのが、男性の前立腺がんと女性の乳がんだ。これらのがんの発症はホルモンに関係しているといわれているが、最近の食事の欧米化が増加傾向に大きく影響しているとも言われている。
南カリフォルニア大学公衆衛生学教室のアミット・ジョシー博士らの研究チームは、早期前立腺がん患者717人、進行性前立腺がん患者1140人、対照群1096人の計2953人の食事内容を調査し、前立腺がんの発症との関連性を調査した。
ジョシー博士らは、食事に関して特に肉の摂取頻度やその調理法に注目した。その結果、豚肉や牛肉など赤身肉を週に1.5回以上、フライパンで焼いて食べている人は進行性前立腺がんの危険率が30%も上昇していることを確認した。また、直火焼きなどで高温調理した赤身肉を週に2.5回以上食べると危険率はさらに40%まで上昇。
興味深いことに、ステーキよりも中までよく火が通りやすいハンバーグの方が危険率は高かったという。高温調理ではタンパク質から発生する「HCas」と呼ばれる物質や、脂質の焦げ部分に含まれる「PAHs」と呼ばれる物質などが前立腺細胞の代謝により発ガン物質に変化するため、発ガン性が上昇する可能性をジョシー博士は指摘する。
一方、鶏肉の危険率を調べると、フライパン調理では赤身肉と同じく危険率が上昇したが、直火焼きでは逆に危険率が低下したという。
これらのデータからすれば、焼き肉の焼き過ぎ、食べ過ぎは控えた方が良さそうだが、鶏肉を食べる時にはフライパンではなく焼き鳥のような直火料理を選択した方が良さそうだ。実際、日本食は欧米の肉料理に比べて、フライパンによるグリルより煮物や蒸し物が多い。日本人の前立腺がん罹患率が米国より少ないのは人種の差よりも食文化の調理の差にあるのかもしれない。
※週刊ポスト2012年12月14日号