今季限りで19年間の選手生活にピリオドを打った福岡ソフトバンクホークスの小久保裕紀(41)は、球界屈指の読書家として知られ、現役時代には1000冊以上を読破している。そんな小久保には、同じ本を何度も繰り返し読むというこだわりがある。
「『7回読めば、自らの血になる』、これは斎藤一人さんの本に書いてあったことです。それ以来、『これだ!』と思う本に出会ったら、最低でも7回は読むようにしています」
現役引退間際に読みふけっていたのは、『人生と財産』(本多静六・著)。10月に福岡ヤフードームで行なわれた小久保の引退セレモニーでの挨拶は、この書の一節を引用したという。
「お借りした一節は『理想は結局理想であって、けっして実現されるべきものではない。すなわち、実現すればもはや理想も現実だ。したがって、その現実の上にさらにあらたなる理想が築き上げられなければならぬ』というもの。
自分の場合も400本塁打、2000本安打と理想が実現していった。ただ、そこで次の理想がなかったので、もうユニフォームを脱ぐべきだと決めたのです。もし“45歳まで現役”とか、新たな理想が立ち上がっていれば、辞めなかったでしょうね」
紙幅の関係で割愛するが、他にも小久保は多くの書籍を挙げている。『生き方』(稲盛和夫・著)、『潜在脳』(志賀一雅・著)、『「気」でよみがえる人間力』(宇城憲治・著)、『斎藤一人の人を動かす』(永松茂久・著)。インタビューの予定の時間を大幅にオーバーしたにもかかわらず、楽しそうに一冊、一冊の思い出を語ってくれた。
「後輩たちにも『読書したから100%成功するわけじゃない。ただ、世間で一流といわれる人は、100%本を読んでいる』と伝えています」
引退して初めて迎える冬、小久保は自伝の執筆に取り組んでいる。現在は朝5時に起きて執筆活動に入り、一言一句、原稿はすべて自分で書いている。『一瞬に生きる─小久保裕紀自叙伝─』(小学館刊)は来年1月30日ごろ発売となる。
「引退後は書く側に挑戦してみたいと思っていたんです」――現役時代から書きためていた野球ノートを参考に、日々パソコンに向かう毎日だ。
取材・文■田中周治
撮影■藤岡雅樹
※週刊ポスト2012年12月14日号