社会現象にもなった2005年のヒット映画『電車男』を26才でプロデュース。以後、『告白』や『悪人』、『モテキ』など数々のヒット作を手掛けてきた映画プロデューサーの川村元気さん(33才)。そんな彼が初めて書いた小説が『世界から猫が消えたなら』(マガジンハウス)だ。
主人公は余命半年と宣告されたばかりの30才の郵便局員。そんな彼の前に突然“悪魔”が現れ、無情にも「明日死ぬ」と通告する。だが悪魔は、彼の寿命を1日延ばすのと引き換えに、毎日ひとつずつ、電話や猫、時計などを世界から消すことを提案する――
この小説を書くきっかけはふたつあったという。ひとつは映画『悪人』で原作者の吉田修一さんに脚本を手掛けてもらったこと。小説と映画でできることの違いに圧倒されたという。
「ぼくは吉田さんがやっていることの逆、つまり、映画の人間が文章でしか表現できないことを書きたいと思うようになったんです。そこで思いついたのが猫。実は猫って、映画では出してはいけないといわれている動物なんです。
全く演技をしてくれないので(笑い)。あと、映画で“何かが消えた世界”を表現するのはかなり難しい。こういった、映画に向かないものや映画的でないものを文章の世界で追求してみたら面白い読み物になるんではないかと…」(川村さん・以下同)
もうひとつのきっかけは、昨年携帯電話を落としたこと。携帯の便利さに改めて気づく一方、親の電話番号さえ覚えていなかった自分にショックを受けた。
「でも、半日携帯電話を持たないで過ごしたら、桜が咲いたとか虹が出ているとか、電車の中のぼく以外の人が全員携帯電話を見てるとか、そんなことをすごくいっぱい見つけた。やっぱり何かを得るためには何かを失わなきゃいけないんだなと思いました。
そのときに、自分にとって本当に大事なものが世界から消えたら、自分が何を見つけるんだろうって考えるようになって。大切なものを消してみることで本当に大事なものを見つけるというテーマは、これまでの人生整理といった要素が大きかったかもしれません」
※女性セブン2012年12月20日号