北朝鮮がミサイル発射を予告し、北東アジアに緊張が高まっている。朝鮮半島有事の際に考えられるシナリオのひとつに「中国軍の北朝鮮侵攻」があると指摘するのは新刊『中国に立ち向かう覚悟』(小学館)を上梓したばかりのジャーナリスト・櫻井よしこ氏だ。北朝鮮に対する中国の思惑を、櫻井氏が解説する。
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中国の最大の目的は、北朝鮮の体制を維持し、最悪の場合、彼らが300万人とも見積もっている難民の流入を防ぎつつ、北朝鮮に自らの実質的支配を打ち立てることです。別の言い方をすれば、アメリカと韓国の影響を北朝鮮には及ぼさせないことです。
万が一、米韓の力が北朝鮮に及ぶような場合、中国は軍事的介入も辞さないと考えるべきです。最悪の事態は、中国軍の北朝鮮侵攻のシナリオです。
名目はどうとでも作れます。例えば、平壌で暴動が起きた、難民が続々と国外脱出するなどです。「北朝鮮国内の治安維持に力を貸す」という名目も立つでしょう。中国は日清戦争での敗北が清朝中国の滅亡を招いたこと、そしてそれは朝鮮半島問題が原因だったことを忘れていません。
だからこそ、中国は金正日の死後、国境地帯に約2000人の兵力を派遣しました。中国は2000年代初めから、もう10年以上、いざとなれば武力で北朝鮮を支配する態勢を整えてきました。北朝鮮との国境につながる道路は戦車が通れるように完全に舗装され、国境の川である鴨緑江にすぐにいくつもの橋がかけられるよう、複数箇所に建設資材が置かれていることも確認されています。
北朝鮮問題もまた「中国問題」にほかなりません。北朝鮮は金正日からまだ若くて権力基盤の脆弱な金正恩体制に移り、いつ何が起きるかわからない状況にあります。朝鮮有事の際には、日米韓が連携して北朝鮮に対峙するのは当然ですが、その背後にいる中国との衝突こそ、想定しておく必要があります。
※櫻井よしこ著『中国に立ち向かう覚悟』より