昨年の大震災では、多くの人命や財産が一瞬にして失われた。同時に、大切な「想い出」の記録である写真アルバムやネガフィルムも流され、多くが泥にまみれてしまった。だが、その写真を劣化が進まないように洗浄して返却するボランティア活動が、今も全国各地で行なわれている。
神奈川のボランティアグループ“海辺のあらいぐま@茅ヶ崎”さんでは、これまでに洗浄・返却してきた写真が2万枚を超えたという。同グループの代表者は、その苦労をこう語る。
「洗浄作業自体は難しくないのですが、送られてくる写真は何枚かが重なって張り付いてしまっていたり、表面が剥がれかかっていたりするものも多く、1枚洗浄するに1日かかることもあります」
ボランティア参加者は、近所の方だけでなく、群馬や栃木など関東一円から集まってくれるといい、「震災から1年半も経った今でも、ボランティアは初体験だけど何かやれることはないかと探していたという方が来てくれますね」(同前)
こうした写真を通じた真心のリレーは、新たなビジネスも生み出している。フォトサービスの大手プラザクリエイト社では、震災を機に「今までは写真を印刷する立場だったが、写真を守ることも写真を扱う企業としての使命」と感じ、先ごろ、手軽に過去の写真を保存する方法として新サービス「おもいで玉手箱」をスタートさせている。
今年4~5月に、プラザクリエイト社が店頭(パレットプラザ、55ステーション)でアンケート調査したところ、40~60代ユーザーは自宅にネガフィルムが100本近く、またVHSテープも50本ほど持っていることが判明した。この場合、持っているというより、どこかにしまっているという方が正しいかもしれないが、何らかの災害が起きて消失するリスクを考えると、アナログデータのままで「どこかにしまっている」という状況はなんとも心もとないと感じてしまう。
「おもいで玉手箱」は、押入れやタンスの奥で眠っているネガフィルムなどのアナログ記録を今のうちにデジタル化、そしてインターネット上のクラウド内に保存するというシステムである。大切な想い出に、安く簡単に「保険をかける」といえばわかりやすいかもしれない。
実はこのような写真やフィルムのデジタル化サービスは、さまざまな企業が着手している。プラザクリエイト社でもデジタル化そのものは以前から行なっていたが、「おもいで玉手箱」の新しいポイントは、自宅に送られてくる専用の“青いハコ”に、写真アルバムやネガフィルムを詰め込んで、宅急便で送り返すだけで、全ての作業は完了してしまうという利用方法のシンプルさにある。これならネットが苦手なシニア世代でも利用しやすい。
ネックとなるのは、ネット上の管理庫にあたる「クラウド」の概念が、一般ユーザーにどれだけ周知されているか、ということだ。手元にCD-ROMなどのメディアが届くわけではないので、『iPadなどでいつでも見られる』といわれても、ピンと来ないユーザーもいるのではないか。
ともあれ、震災の教訓から生まれたこの新サービスが、ネットのユニバーサルデザインを推し進めることになるのかもしれない。