反日や領土問題を始め中国の脅威が目前に迫っている。いま、日本は中国に対しどう臨むべきなのか、石原慎太郎氏と櫻井よしこ氏が、語り合った。
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櫻井:中国の存在が現実の脅威として迫る中で、国を守るためには物理的な「力」が必要です。海軍力を中心に軍事力を増強するのはもちろんのこと、私は核保有の議論もタブー視すべきではないと思っています。
石原:佐藤栄作は沖縄返還に乗り出して、非核三原則を論じた。ところがその一方で、ジョンソン大統領時代に、日本も核を保有したいからノウハウを渡してくれと言って断わられているんです。ドイツにも一緒に核を配備しようと交渉を持ちかけている。この二枚舌はしたたかだと思いますね。
櫻井:私は安保改定を断行した兄の岸信介を高く評価していますが、彼も非核二原則で、日本への核の持ち込みを認める立場でした。
石原:当たり前の話なんですよ。沖縄返還交渉をしていた頃、僕は日本の政治家として初めてNORAD(ノースアメリカン・エアディフェンス=北米航空宇宙防衛司令部)とSAC(ストラテジック・エア・コマンド=戦略空軍)を視察したんです。
その時、NORADの司令官は、ソ連のミサイルが飛んできたら途中で撃ち落とす。しかし、その警備体制は名前の通りノース・アメリカだけが対象だと言いました。「じゃあ、日本はどうなるんだ?」と僕が聞いたら、日本は遠すぎるしソ連に近すぎる。我々がカバーできるわけがないじゃないかと。それで「なぜ日本は自分で核を持たないのか」と言うんです。もっともな話です。
櫻井:それがアメリカの「国家の論理」ですよね。日米安保は必要ですが、頼りきってはいけない。日本は、自らを守る力を身につけなくてはなりません。
石原:日本は核についてちょっと何か言うと「核武装論者だ」と叩かれる。でも、最低限、核保有のシミュレーションはやるべきだと思う。
櫻井:実際に持つかはともかく、「議論」はすべきだと思います。日本人が真剣にその可能性を考えているということを、アメリカにも中国にも見せつければいいんです。
石原:オバマなんて、核なき世界と言ってノーベル平和賞をもらったけど、その2か月後には新しい核兵器のシミュレーションを始めているじゃないですか。日本もやったらいいんです。
日本はずっとアメリカの“妾”だったけれども、肝心の旦那がだんだん左前になってきた。だからアメリカは、日本にもっと独り立ちしてもらいたいはずなんだ。ところがアメリカはけしからんことに、一方では日本には強力な武器は持たせようとしない。
櫻井:F-22ラプターが好例ですね。日本側が老朽化したF4戦闘機の後継として希望していたのに、アメリカは日本には輸出しなかった。
石原:F-22のステルス塗料は日本製で、他の軍用機のコクピットも日本製の部品が多いですよ。それを逆手にとって、中曽根(康弘)さんの時代に次期支援戦闘機を自前で作ると言ったら、アメリカに潰された。
櫻井:アメリカは日本に対して、本音では信用していないように見えます。
石原:していませんね。
櫻井:10月27日に早稲田大学の大隈講堂で、アーミテージ元米国務副長官とハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が学生を前に討論して、その内容が日本経済新聞に掲載されました。ナイ氏は慰安婦の強制連行に関して、河野談話(*注)の否定をしないことが大事だと語り、アーミテージ氏も尖閣諸島をめぐる問題で「火に油を注ぐようなことはしないことだ」と日本に警告しています。
両氏はさらに首相の靖国神社参拝についても、別のところに新たな追悼施設を作ればいいと述べました。知日派と称される彼らでさえ、歴史観や国家観では日本よりも中国に寄っている。こうしたアメリカのインテリ層は実は多いんです。
石原:彼らはカネで洗脳されているという面も大きいでしょう。シナは、アメリカで莫大なカネを使ってロビー活動を行なっていますからね。
櫻井:日本には高い技術力があります。仮に自衛隊が尖閣諸島をめぐって中国と戦っても勝てるでしょう。だからこそ、アメリカに頼りっきりになるのではなく自力で国土と国民を守る覚悟が必要です。
*注/1993年に河野洋平官房長官(当時)が発表した「慰安婦関係調査結果発表に関する内閣官房長官談話」。「調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた」などとするものだが、元慰安婦への聞き取り調査では事実関係の検証がなかったなど、調査のあり方自体に疑義が残っている。
※SAPIO2013年1月号