習近平体制がスタートした。新しい中国のリーダーは難しい舵取りを迫られるだろう。中国はひとつでも判断を誤ればたちまち内戦状態へ突入する不安定な状態にある。ジャーナリストの富坂聰氏がリポートする。
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江沢民、胡錦濤時代に繁栄を謳歌した中国だが、強引な開発、投資による経済成長のツケを払う時期にさしかかっている。
尖閣諸島の国有化をきっかけに中国の各都市で発生した反日デモでは、日本車に乗っている者への暴行や悪質な破壊行為を理由に事件後まもなく29名が指名手配された。その全員が若い世代で無職だった。
デモの様子をテレビで見た日本人のなかには「それが井戸を掘った人に対する礼儀か」と憤った人が多かったようだが、歴史的経緯をきちんと把握しているインテリ層はデモの時、黙って家にいたのだ。デモはそんなことを考えたこともない若年貧困層が主体となっている。
その暴れる下層こそ、中国共産党が最も恐れる存在だ。経済発展の恩恵にいまだ浴していない者たちだからだ。
彼らが日本車を破壊する様子はテレビで繰り返し報道されたが、その動機は「日本車だから」ではない。デモ以前から、路上駐車されたベンツやBMWなどの高級外車が次々と破壊されている。要は「俺が乗れない高級車に乗りやがって」という不満をぶつけていたのである。
そこへ尖閣問題が過熱して、日本車に限っては“免罪符”が与えられ、エスカレートしたに過ぎない。
生きるか死ぬかというギリギリの生活を強いられている貧困層は年収30万円程度だ。ベンツともなると、中国で購入すれば税金も含めて約1500万円はかかる。実に貧困層の50年分の賃金だ。
中国はアメリカとそっくりな超資本主義社会である。近年はお金がないことを理由に病院で診療を断わられ、死亡するケースが相次いでいる。そして遺族が死体を病院に持ち込んでそこで葬儀を行なうという抗議行動も多発している。中国はアメリカンドリームなき競争社会なのだ。年金制度もない、医療保険制度もない国で、これら貧困層の5年後10年後を考えた時、希望はまったく見えない。
2012年初頭から経済が悪化して彼らの雇用はますます不安定となり、不平不満はたまる一方だ。だが、過激なデモ、破壊行為を行なう者に対して政府は説得する言葉を持っていない。
「日本との関係が悪化すると経済が悪化して結果的に自分たちの首を絞めることになる」と言ったところで、もともと彼らは経済発展の恩恵を受けていないのだから、聞く耳を持たない。
※SAPIO2013年1月号