【マンガ紹介】
『あなたのことはそれほど』(いくえみ綾/祥伝社/980円)
『泣き虫チエ子さん』(益田ミリ/集英社/880円)
「二番目に好きな人と結婚すればうまくいく」。…どうでしょう、このセリフ。納得、反対、憤り、いろんな気持ちを呼び起こすのではないでしょうか。『あなたのことはそれほど』の主人公・美都が少女時代に占いで言われたセリフです。
その言葉通り、「ふつうの人/すごくいい人/二番目に好きな人」と結婚し、それなりに楽しい毎日を送る美都。でも小6の時からずっと「いちばん好き」だった初恋の有島くんと偶然再会し、その日のうちに体の関係に。
恐ろしいのが、始めはお互い独身のフリをしていること。妻の出産にあたって既婚者だと明かし、有島は去って行こうとするのですが、彼を失いたくない美都は追いかけてこう言います。「私も結婚してるから大丈夫/安心して?」。
夫がいることは恋愛の妨げではなく、「だから」大丈夫。ああ…。この後ドロドロのW不倫劇になる様が浮かんでイヤーな気分になるのですが、明日自分が「そちら側」に行ってしまうのではないか、というドス黒いトキメキに満ちてもいるんです。
もっと結婚に夢を持たせてよ、という独身女性のみなさまには、お口直しに(といってはなんですが)『泣き虫チエ子さん』を。自宅で靴の修理屋さんを営むサクちゃんと会社員のチエ子さん、共に30代、結婚11年目。スーパーで待ち合わせて買い物して帰るのが日課で、ひとりの時間もお互い尊重して、たまにふたりで夜のお散歩をして。
いかにもほのぼの夫婦なふたりですが、「お腹がへっているときのチエ子さんには/とにかく/言い返さないほうが身のため」(byサクちゃん)など、時折冷静な描写がピリリ。お互いの不機嫌やイライラを微調整しながら築き上げたほのぼのなんですよね。大人がリアルに憧れる、理想の夫婦像です。
まったく異質に見えるふたつの作品。でも、よ~く読むと、これって1組の夫婦の中に両立する物語なのではないか、とも思えてきます。ほかに好きな人ができたり、ほのぼのしたり、不機嫌を飼い慣らしたり。ひとつの物語で語ることのできる夫婦なんて(外からはそう見えても)いないのかもしれないですね。 (文/門倉紫麻)
※女性セブン2012年12月27日・2013年1月1日号