へーベルハウスの『2.5世帯住宅』に注目が集まっている。2世帯+単身者が「集まって暮らす」新発想の住宅だ。社内では評価が高かったというものの、最後の壁があったという。2.5世帯住宅はいかにして生まれ、へーベルハウスはその壁をどう克服したのか。作家で五感生活研究所の山下柚実氏が報告する。
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女性が当たり前のように外で働く時代。一方では晩婚化、婚活が話題になっている。「いつ結婚するの?」と周囲から干渉されるのがイヤで一人暮らしをしてきた人も多い。しかし、未曾有の震災を体験して私たちの価値観は大きく転換した。人と人との「絆」の意味が浮き彫りになった。
そんな中、2012年8月に発売された新しい住宅に、熱い視線が注がれている。消費者から問い合わせが相次ぎ、担当者は対応にかけずり回っているという。いったいどんな家だろう?
名前は『2.5世帯住宅』。親世帯と子世帯が一緒に暮らす従来の2世帯住宅に、新たに「0.5」世帯が加わるという。その「0.5」とは、独身の姉や妹、兄や弟。それが『へーベルハウス2.5世帯住宅』の提案だ。
さぞや大震災がハウスメーカーの企画に影響を与えたに違いない。「絆」が求められる時代の反映か……などと勝手に想像していた私。あにはからんや、開発担当者はこんな一言を口にした。
「特に震災の影響ということはありません。それ以前から、集まって暮らす新しい形態が生まれてきていたのです」「私どもがこれまで販売してきたヘーベルハウス2世帯住宅について、家族構成の実態を調べてみたのです。
すると、その17%がすでに2.5世帯で住んでいた。これは想像以上の数字でしたね」と、旭化成ホームズ・二世帯住宅研究所の松本吉彦所長(53)は驚きを隠さない。
「詳細に見ていくといくつもの発見がありました。まず、2世帯同居に比べて2.5世帯は、特に分離度の高い間取りでは暮らしの満足度が高いことがわかったのです」
同居する独身のお姉さんが、他の人にとって「役立つ存在」であることも浮かび上がってきた。ワーキングシングルの姉や妹といえば、最先端のファッションやおいしい店、海外旅行など多彩な知識と体験を持っている。
「彼女たちは家事や子育てのサポート役のみならず、家の中で最先端の情報メッセンジャーとして貢献しています。一方で、祖父や祖母は、昔のよき日本の暮らしを教えてくれる。そんな家に育つ子は敬語の使い方が上手だったり、相手によって話し方を変えることができる。つまり社会性を身に付けやすいのです」
一つ屋根の下に多様な人が暮らす。すると家が地域コミュニティのように機能し始める。それが子どもにも大人にもよい影響を及ぼしていた、というわけだ。
「2.5世帯住宅」の内容は社内会議でも高く評価された。しかし、最後に一つの懸念が残っていた。「社会にあるネガティブな捉え方にいかに対処するか」という課題だった。
「0.5世帯については一般的に、『結婚できない人』『離婚した出戻り』というマイナスイメージがある。そうした人と同居するという提案を、いかに『肯定的に』伝えられるのか」
最後に越えねばならないハードルは高かった。でも、と松本所長は続ける。「現場で楽しそうに暮らす2.5世帯をたくさん見ました。ネガティブなイメージに勝る楽しい生活という現実をどう表現するか、PR担当者を交えて検討を重ねました」
集まって暮らすことのストレスを減らすという「問題対処」にとどまらず、もう一歩踏み込んで、集まる「楽しさ」を発信する新商品。「2.5世帯住宅」は、いわば「問題対処」から「積極的な提案」への転換だった。その発信力が世の共感を集め、反響を呼んだのだ。
※SAPIO2013年1月号