今年も数多くの作品が生み出されたTVドラマ。もっとも注目されるべき作品とは何だったか――作家で五感生活研究所の山下柚実氏が考察した。
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テレビドラマといえば、何かと視聴率が指標に。でも、ドラマの価値を測るものさしは、もちろん「数字」だけではありません。
低視聴率の数字に見合ってたしかに内容も薄く、「これを放送して何の意味が?」「社会的コストのムダでは」と感じてしまう某監督の作品など、中にはあったりするのですが……。
一方で、高い数字はとれなくてもしっかりと「ある役割」を果たす、個性的なドラマも誕生しています。
終了直後から続々と「続編を」「再放送を」「映画化を」という熱い書き込みが続く、NHKのドラマ10「シングルマザーズ」(10月23日~12月11日)。8回の視聴率はほぼ横ばいで、6.8~9.7%と特に目立つものではありませんでした。しかし、ドラマには珍しい「鑑賞のされ方」をした、今年最も注目されるべきドラマの一つだったと言ってよいのでは。
物語はタイトル通り、「シングルマザー」が主人公。エスカレートする夫の暴力から逃げることを決め、家を飛び出した沢口靖子演じる直。一人で息子を育てる決意をし、現実と奮闘しつつ、次第に力強さを身につけていく――。
取材した現実をベースにした脚本だけに、ドラマは滑り出しから決定的に重たかった。夫のDVのシーンが過酷。主役・沢口靖子の演技が尋常ならざるリアルさ。あまりに真に迫っていて、夫が追ってくるシーンなど直視できない怖さ。お茶の間で見ているこっちの肩にも力が入り、全身が硬直しどっと疲れてしまう。
一言でいえば、現実を現実として逃げずに描いたからこそ、緊迫している。だから辛い。視聴者までが追いつめられる気分。これはもう「娯楽」というジャンルを超えてしまっているのでは……。
と、最初の頃は思いました。けれども回を重ねるごとに、逃げることに必死だった直が、他のシングルマザーたちと出会い、生きる手段を手に入れ、そして最後には社会的な行動に立ち上がり……。
視聴者の感想です。
「シングルマザーを支える団体がどこにあるか知りたい。市役所に聞いてみたが見つけられなかった」
「私の地元にもネットワークがほしい」
「こうした情報を広く知らせ、一人親の支援をもっと充実させて」
「DVは外の人にわかりにくい暴力なので、実態を詳しく描いてくれてありがとう」
「ベトナム帰還兵が抱える心の問題と同じ」
「私の悩みが、多くのシングルマザーに共有のものだと知って勇気をもらった」
「超」具体的な感想が。それらを見て、このドラマは世の多くのシングルマザーたちに生きるノウハウとパワーを伝達する「情報媒体」だったのか、と気付かされました。
いわば、新しい役割を果たしたドラマだったのでは。これまでは自治体の窓口や広報紙、新聞の家庭欄などが伝達してきたような情報を、テレビドラマが物語を通して橋渡しする――そんな時代が来たのかもしれません。
「でもさ、夜10時のドラマじゃ、本当に情報を必要としているシングルマザーたちに十分には届かなかったと思うよ。その時間帯は忙しくて、彼女たちはテレビなんか見ていられないんだから」
というのは、先輩シングルマザーの弁。
日本に124万人もいるシングルマザーたち。その8割が年収200万円という過酷な生活をしている現実。夜10時にゆっくりドラマを見ていられるのはたしかに一部かもしれません。だからこそ、ぜひ再放送を。続編を望みたくなります。