番組終了直後から、反響は凄まじかった。11月18日に放送されたNHKスペシャル『がんワクチン~“夢の治療薬”への格闘~』のことだ。
ここで“夢の治療薬”として紹介されたのは「がんワクチン」。手術(外科的切除)、放射線療法、化学療法(抗がん剤治療)に次ぐ「第4のがん治療法」として、熱い注目を集めている。
番組では、千葉県在住の50代女性のすい臓がん患者がこのワクチンを接種し、病状が改善していく様子が描かれた。食欲不振は軽減され、CTで確認されるがん細胞にも進行は見られなかった。その内容は、がんに苦しむ人々に「自分も試したい」と思わせるインパクトを持っていた。
番組では、このがんワクチンについて「日本ではまだ承認されておらず、その効果を確かめる治験の段階」であると断わっている。しかし、がん患者にとって大きな希望の光となったことは間違いない。
それでは、このがんワクチン治療はどうすれば受けられるのか。 まだ日本ではがんワクチンは治験段階に過ぎない。
新薬が製造されるまでには大まかに基礎研究・3段階の治験・承認というプロセスがある。NHKスペシャルで取り上げられたすい臓がんのペプチドワクチンは、2012年から治験の第3相(最終段階)に入っているが、結果が出るのは2年後で、製品化は最速でも4年後となる。現実的には5年、10年というスパンで考える必要がある。
現状では、がんワクチンの利用は、治験か医療機関が行なう臨床試験への参加に限られる。
ただし治験への参加は狭き門だ。年齢や治療歴、血液検査など50項目にわたる条件をクリアしないと治験は受けられない。中でも大きな難関が白血球の型の適合だ。
現在がんワクチンの治験を行なっている多くの大学病院は、東京大学医科学研究所から提供されたワクチンを利用しているが、このワクチンによる治験を受けることができるのは、HLA24という白血球の型を持つ人のみ。日本人でこの型を持っているのは約6割。つまり4割の日本人には治験を受けるチャンスすらない。
さらにいえば、被験者の3分の1は、ワクチンを受けた患者との効果を比較するため、本人や医師にも知らされないままにプラセボと呼ばれる偽薬を接種される。つまり、被験者の3人に1人はニセのがんワクチンを投与される。これを受け入れたうえで、治験を受けなければならないのだ。
どうしてもがんワクチンを受けたいという患者には、もうひとつの道がある。医療機関が行なう臨床試験への参加だ。
久留米大学では2009年4月に国内初の「がんワクチン外来」を開設した。開設日には、2時間で約1700人が問い合わせに殺到する異常事態が起こったほど。その注目度は高い。久留米大学先端癌治療研究センターの山田亮・教授がいう。
「我々の治療法の特徴は、あらかじめ31種類のペプチドワクチンを用意しておき、患者の白血球型と免疫活性にあった4種類を皮下注射します。固定したひとつのペプチドでは、患者によって免疫反応がでない場合があるためです。この方法を我々は“テーラーメードワクチン”と呼んでいますが、これならどの部位のがんについても対応できますし、白血球(HLA)の型も問わない」
※週刊ポスト2012年12月14日号