新幹線の車両清掃を担当する「JR東日本テクノハート・TESSEI(旧鉄道整備株式会社。以下、テッセイ)」は、画期的な取り組みで世界から注目を集めている。テッセイの仕事のどこに、注目を浴びる理由があるのだろうか。ある日の清掃作業を追ってみた。
12月某日、JR東京駅の22番線ホーム。線路側には、赤いユニフォームを着た、数十人のテッセイのスタッフが、等間隔・一列に並んで立っていた。
そこへ東北新幹線が入線。テッセイのスタッフたちが一斉にお辞儀をして迎える。清掃作業の始まりだ。
16時56分に到着した列車はこの後、17時8分発の「やまびこつばさ147号」として再び発車するため、東京駅での滞在時間はわずか12分間。しかも乗・降車には約5分かかるといわれるため、折り返しの準備作業時間は7分しかない。
到着から2分後、乗客がいなくなったのを確認し、赤い軍団が車内に飛び込む。普通車客室は1人、グリーン車は2~3人で、1車両の作業に当たる。
まずは両サイドの網棚、座席間を覗いて、忘れ物がないかチェック。座席を進行方向へ回転させながら、反対側のドアまで走り、途中、落ちていたゴミを通路に掃き出した。1車両の長さは25メートル、客席は100席。端から端を確認し終わるまで、1分30秒かかった。
“復路”では各窓のブラインドを下ろして点検。同時に全座席のテーブルを出して、窓枠と棚とともに拭き、座席カバーが汚れていれば交換する。ここまでで、3分少々。
「ピッチ上げて! あと2分で!」
見回りに来た女性の主任が発破をかける。その間にスタッフは箒を持ち、先ほど通路に出したゴミを一気に集める。一方、2両に1か所あるトイレや洗面所でも、別のスタッフが同時進行で作業に当たっていた。
各車両の作業が完了し、最後に主任が点検して終了。スタッフは車外に出て全員で整列、ホームで待っていた乗客に対して一礼した。時刻は17時4分。約6分で完遂した計算だ。発車3分前に乗車が始まり、列車は定刻通り出発した。
テッセイの矢部輝夫専務が語る。
「与えられた時間は7分ですが、混雑でお客様の降車に時間がかかったりして、7分をフルに使えることは少ない。そのため常に、できるだけ早く作業を終えるようにしています」
その言葉通り、続いて入線してきた新幹線では、5分27秒で完遂した。
テッセイはこの清掃作業を「新幹線劇場」と呼んでいる。確かにその作業の正確さと素早さは、「劇場」の名に恥じない完成度だ。海外も彼らに注目しており、欧米の高官が視察に訪れたり、CNNでは「ミラクル7ミニッツ(奇跡の7分間)」と絶賛された。
国内でも、スタッフの奮闘ぶりを扱った『新幹線お掃除の天使たち』(遠藤功著・あさ出版)が、現在10万部のベストセラーとなっている。だがこれは、同社にとっては「当たり前の業務」なのだという。
「ただ車両を綺麗にするだけではない。清掃の遅れは新幹線の遅れに繋がる。我々には、ダイヤを守るという義務もあるのです」(矢部専務)
東京駅の2面あるホーム(4車線)では、1日に新幹線210本が折り返し運転を行なっており、実に4分間隔で発着している。テッセイは、1チーム22人の編成で1日平均120本、ピーク時は168本にも及ぶ清掃作業を一手に引き受けている。緩慢な作業は、致命的な遅れに繋がるのだ。
※週刊ポスト2012年12月21・28日号