日本のHIV感染者とAIDS患者の2011年度の新規報告は1056人と473人、累計では2万人を超えた。1997年以降導入された抗ウイルス療法(HAART)以前は、HIVにより重症の痴呆になる例(いわゆるAIDS脳症)が多かった。現在は治療でウイルスの増殖を抑えることが可能になり、感染しても発症しない患者が増えている。
それら無症状と思われていた患者の中に、認知機能障害(物忘れ、言葉がでてこない)、運動機能障害(バランスがとれない)、行動異常(服装に気を遣わない、社会に無関心)を起こすHIV関連神経認知障害(HAND)を発症する患者が増えていることが徐々にわかってきた。
国立国際医療研究センター病院エイズ治療・研究開発センターの田沼順子専門外来医長に話を聞いた。
「HANDはHIV感染者の2~4割程度いると推測されています。重症度に応じ3つに分類されますが、時間の経過とともに認知症も進行することもあるので、患者の高齢化により重症例が増える可能性もあります」
重症度は顕著な機能障害を伴う認知障害(HAD)、軽度神経認知障害(MND)、無症候性神経心理学的障害(ANI)に分類される。ANIは日常生活には問題ない、MNDでは日常生活に支障がでて支援が必要、HADでは療養型病院での入院加療も必要となる。しかし日本ではAIDSに対する偏見が根強く、受け入れ施設が少ないという問題もある。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2012年12月21・28日号