「日本人は胃が弱い」というのは、あながち間違ったイメージではない。厚生労働省の調査によると、胃潰瘍及び十二指腸潰瘍の総患者数は52万人(平成20年患者調査の概況より)。WHO(世界保健機関)によると、日本は胃がん発症率が高く、人口10万人当たり31.1人にも上る。
「食べ過ぎや飲み過ぎ、ストレスなどによって、一時的に胃に炎症が起きる急性胃炎なら、胃を休めたり、薬を飲んだりすることで、完治できます。ただし、つねに胃に不快感がある、胃もたれや胸焼けなどが続く、食後に胃がしくしくと痛むといった慢性胃炎は、胃潰瘍や胃がんを引き起こすこともあります。なるべく早く医師の診察と、『ピロリ菌検診』を受けることを勧めます」(東海大学医学部・高木敦司教授)
日本ヘリコバクター学会の調査では、胃がん患者の98%、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の患者の80~90%がピロリ菌に感染していることがわかっている。感染しているからといって、必ず胃がんになるとはいえないが、そのリスクは確実に高くなる。実際、WHOは1994年、ピロリ菌を「胃がんの明らかな発がん因子」と認定している。
ピロリ菌感染者は、日本人の半数にあたる約6000万人。高齢者ほど感染率が高く、50代以上では7~8割といわれる。
「ピロリ菌は小児期の衛生環境や家族からの感染により、除菌治療をしない限りは、生涯にわたって感染した状態が続き、慢性胃炎となります。それが長期にわたると、胃の粘膜が薄くなる萎縮性胃炎を発症します。さらにストレスや食生活の乱れなどのダメージが加わると、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんが起きやすい状態になるのです」(高木教授)
ピロリ菌に感染しているかどうかは、内視鏡検査のほか、尿や便、血液、呼気による検査で確認できる。感染が確認された場合、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの患者であれば、除菌治療に健康保険が適用される。
「胃潰瘍の患者で、除菌した人としていない人を比べると、除菌した人の胃がんの発症率が3分の1に下がったという研究結果が出ています」(同前)
胃がんだけでなく、前がん状態ともいえる慢性胃炎や胃潰瘍を予防するのにも、ピロリ菌の除菌治療は有効と考えられている。
※週刊ポスト2012年12月21・28日号