2013年に「来る」食べ物はなにか。食文化に詳しい編集ライターの松浦達也氏が、2013年のトレンドを占う。
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先日の本稿で「『袋めん』が本当にブレイクするのは2013年だ!」と書いたが、2013年に「来る!食」はもちろん他にもある。キーワードは「再構築」と「細分化」だ。
2011年の震災で、日本の食は「ベクレル」という未知の基準についての「安全」に軸足を置かざるを得なくなった。2012年の食の傾向は、震災前から続くトレンドと、震災後に求められた「安全性」の狭間で揺れ動いた。自宅で素材選びから手をつけられる「塩麹」があれほどの人気となったのには、そうした社会背景もあったはずだ。
2013年は、2011年の震災前から意識が向いていた「食肉」「健康食」「地方食」に、2012年の傾向が融合し、再構築がなされ、細分化される年になる。
まず「肉」で言うと、イチオシは「肉Bar」「肉居酒屋」だ。焼肉やステーキではなく、じっくり炙ったロースト肉や自家製の加工肉を出す店舗が首都圏を中心に増えている。近年、自家製のソーセージなどを出す店が新宿や恵比寿、門前仲町などに出店し、大人気に。2013年にはさらなるブレイクが予想される。
さらに牛、豚、鶏に続く「第四の肉」のブレイクも見込まれる。馬肉やラム(子羊)のほか、このところ急激に存在感を増しているダチョウ肉からも目が離せない。いずれも低脂肪、低カロリー、高タンパクと消費者の健康志向にも合致する。
健康志向という観点から見るとアーモンドも来るだろう。今年もテレビの情報番組などで「ダイエット効果が?」と紹介されては、店頭から品切れになったという。ミネラルやビタミンEも豊富で、欧米では学術的な文献も多数。「ナッツ類最強」と言われる底力を秘めている。テレビで紹介されると、店頭に人が押し寄せる傾向は何とかならないかとも思うが、それが食生活を見直すきっかけになるならば、悪いとも言い切れない。
また2012年の傾向を引き継いで「発酵/酵素」系の食材や調味料も引き続き、人気になるだろう。ただし2013年の「発酵」は前面に打ち出すというより、より自然な使い方に変化していくはずだ。
そのほか、低インシュリンダイエットの進化形とも言える「ZONEダイエット」のように、「食べながら健康を追求」するダイエット法からも目が離せない。
そしてこの数年、光が当てられるようになった「地方の食」も深化する。これまで「ご当地グルメ」と言えば、イベントに引きずられるようなヒットが多かった。だが、2013年は長く地域で愛されてきた食に、「多様な価値観」が認められて光が当たる年になる。
例えば、「やわ系うどん」だ。讃岐うどんの台頭以降、やたらとコシ重視の風潮が強くなっていたが、「やわ系」「ふわ系」うどんは各地にある。代表例としてよく「伊勢うどん」が挙げられるが、他にも「鳴門うどん」「備中うどん」など、口当たりのやさしいうどんは少なくない。全国的にファンの多い、福岡うどんなどは大ブレイクしてもいい土壌がある。ぜひ「『牧のうどん』VS『かろのうろん』」(*)などのうどん談義に花を咲かせてみたい。
そのほか、「地物」で「餃子」や「地ビール(クラフトビール)」など、2013のヒット候補を数え上げたらキリがないが、欠かせない要件がひとつある。
「メディアに情報が消費されることのない、『物語のある食』」
ハリボテや急ごしらえのブランドストーリーが通用するほど、2013年の日本の食は甘くない。
*注/福岡うどんの名店。両者とも全国に熱狂的なファンがいるが、チェーンの「牧のうどん」も福岡、佐賀など九州北部のみでの店舗展開となっており、九州外の人がその魅力に触れる機会は少ない。