「ミラクル7ミニッツ(奇跡の7分間)」と世界から称賛された、「JR東日本テクノハート・TESSEI(旧鉄道整備株式会社。以下、テッセイ)」の新幹線車両清掃。みずから「新幹線劇場」と呼ぶその仕事ぶりは、利用客にも好評だ。
「キビキビ動くし、礼儀正しくて気持ちがいい。待たされているのも不快にならない」(50代会社役員)
「降りた時にゴミ袋を広げて待ってくれている。こういうちょっとした気遣いが嬉しい」(30代自営業)
柿崎幸人・取締役(東京サービスセンター所長)はこう語る。
「新幹線劇場には三つの役が必要です。役者、大道具と小道具、案内。そしてこの劇場の主役は、なんといってもお客様です。すべてのお客様に新幹線の旅を心地よく感じてもらえるように。私たちの夢はその心と共にあります」
ただし清掃という仕事は、誰にでもできるものとは限らない。実際、テッセイでも、採用されながら3か月ほどで辞めてしまうパートも多い。
最初は、仕事をしている姿を見られたくないと感じる人も少なくなかった。だが作業に慣れ、自分の仕事に意義を感じるようになって、誇りを持つ社員は多い。
「テッセイは3K(危険・汚い・キツい)の職場を、3K(感謝・感激・感動)の職場に変えている」と語るのは『新幹線お掃除の天使たち』の著者で、経営コンサルタントの遠藤功氏だ。
「新幹線発着のわずかな時間内に作業を完了して、乗客を感動させる。仕事における“感動創出”という意味では、ディズニーランドともよく比較されます。ただ、両者は明らかに違う。
一方は非日常の世界であり、顧客もそれを自覚して楽しんでいるが、新幹線はまさに日常の世界。その日常において、顧客が感心するところに凄さがある。掃除は綺麗になって当たり前。なかなか褒められない業務です。それを、みんなに“よくやっている”と思わせる強い“現場力”がある」(遠藤氏)
遠藤氏が続ける。
「テッセイは何も特別なことをやっているわけではない。まずは管理職が部下に向き合い、仕事の意味・意義を教え、自分の役割を理解させる。きちんと挨拶する環境を作り、日常的に褒め、明るい雰囲気を作る。
一見小学生レベルの話に思えますが、これができていない職場が多い。自分の会社に元気がないと思う人は、テッセイの“現場力”に学んでみてください。明日からでも、あなたの職場は大きく変わると思いますよ」
※週刊ポスト2012年12月21・28日号