ネットで繰り返し話題になるかけ算の問題がある。「5人に飴を4個ずつ配るとき、飴はいくつ必要になりますか」という問いに「5×4=20」と答えると、小学校の先生から「×」をもらう、というのである。正答は「4×5=20」である。しかし「かけ算の順番は入れ換えても一緒、A×B=B×A」ではないのか。ベネッセコーポレーションの「進研ゼミ小学講座」算数科に、説明してもらった。(取材・文=フリーライター神田憲行)
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ベネッセからはより正確を期すために、文章で回答が寄せられたので、そのまま転載する。
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かけ算の式を書く順番について、進研ゼミでは(1つ分の数)×(いくつ分)=(全部の数)で立式するよう指導しております。理由は以下の通りです。
1:式は単なる「答えを出すもの」ではなく『数量の関係を表すもの』として指導しています。学習指導要領には「乗法が用いられる場合とその意味」として「乗法はひとつ分の大きさが決まっているときに、そのいくつ分かに当たる大きさを求める場合に用いられるつまり累加の簡素な表現として乗法による表現が用いられることになる」とあるので、そのような乗法の意味に合わせて立式をしています。
かけ算の式を「単なる答えを出すためのもの」としてではなく「数量の関係を表すもの」としてとらえて、式を見たときに、誰でも同じ意味に読みとれなくてはいけないため、『飴を5個ずつ4人に配る』のであれば5×4と表現することが必要で、4×5では『飴を4個ずつ5人に配る』というように状況が変わってしまいます。
2:割合の考え方への拡張が自然にされる
《(1つ分の数)×(いくつ分)》という式は《(1つ分の数)×(何倍)》とも置き換えて考えられ、もとにする量の何倍かを求めるということは、割合の考え方につながります。「何倍」の部分は整数倍から小数・分数倍へと拡張し、《(もとにする量)×(割合)=(比べられる量)》という式になり《(割合)=(比べられる量)÷(もとにする量)》という割合を求める式に自然とつながります。
3:教科書の指導に合わせてお子さまの混乱を防ぐ
上記のような考え方から、弊社が対応しているすべての教科書において、かけ算を《(1つ分の数)×(いくつ分)=(全部の数)》という式で扱っています。教科書に合わせた指導をしている弊社としては、お子さまの理解の混乱を防ぐためにも教科書と同様の指導をしています。
以上のようなことから、弊社では、かけ算の立式については(1つ分の数)×(いくつ分)=(全部の数)で指導しております。
かけ算の文章題を解く際には、「演算決定」「立式」「計算」という3つのステップがあり、(1つ分の数)×(いくつ分)=(全部の数)とすることは「立式」の部分における約束であることを指導しています。つまり、「立式」はかけ算の意味に基づいて行う必要がありますが、そのあとの「計算」においては、工夫したり、左右を入れ替えて考えたりしてもよいということになります。かけ算の交換法則を指導することで、お子さまの混乱も見えますが、「計算」のステップにおいて交換・分配法則を使うことは、かけ算の数の拡張には欠かせないことですので、「立式」とは別に「計算のきまり」としてしっかり指導しております。
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かけ算の文章題は小学2年生で登場する。そこで(1つ分の数)×(いくつ分)=(全部の数)という考え方を抑えておけば、5年生で学ぶ「割合」の理解がしやすい。またかけ算の文章題では答えだけでなく、「立式」というステップも大切なポイントであるとは、重要な指摘だろう。
なお、ベネッセの添削「赤ペン先生の問題」では、冒頭の問題のように「5人に飴を4個ずつ配るとき、飴はいくつ必要になりますか」という問いに「5×4=20」と答えた場合は、式に対して「×」ではなく「△」を与え、マイナス1点としているそうだ。