“数字の乖離”への衝撃は大きかった。ただ、作家で五感生活研究所の山下柚実氏は、それが女優・山口智子への評価を決定づけるものではないはず、と指摘する。
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有名な映画監督・是枝裕和氏が手がけた初の連ドラ。16年ぶりにドラマ復帰した山口智子。宮崎あおい、阿部寛、西田敏行などの豪華キャストと、鳴り物入りで始まったドラマ「ゴーイング マイ ホーム」(フジテレビ系)。
ところが。事前の期待に反して視聴率は落ち続け、最終回を前に第9話は4.6%(12月11日放送)まで低下。そのあまりの人気のなさに、「戦犯」捜しが始まっています。「視聴者にウケなかった山口智子」(『リアルライブ』)といった見出しも。
かつて30%に迫る視聴率のトレンディドラマで活躍し、“高視聴率の女王”として名を馳せた過去があるからでしょうか。不人気の理由を、山口智子が一人で背負っているような状況なのです。
「ホームドラマという設定が、トレンディ女優・山口のイメージにそぐわなかったのでは」(『アサヒ芸能』)
「松嶋菜々子が完全復活した“家政婦のミタ”のような意外性もない。そもそもドラマの“固定客”である若い女性はもう山口の全盛期を知らない世代になっている」
「山口の“普通っぽさ”はトレンディドラマにはハマりましたが、その雰囲気は今のドラマにはあまり合ってないことが見えてしまった。数字が取れないと他局も山口を使うのは躊躇するだろうし、女優として厳しい局面を迎えています」(『週刊文春』)
でも、本当に山口さんのせい?
よく考えてみよう。
「“家政婦のミタ”のような意外性もない」って、ドラマの骨格を設定するのは俳優の仕事じゃありません。脚本家や制作陣です。
「普通っぽさ」は、役者・山口智子が求めたのではない。脚本・演出を担当している是枝氏がドラマ世界で求めたこと。
「テーマやメッセージに縛られない、人の日々の生のありようを描くのが連ドラだと僕は思っているんです」と、このドラマについての是枝氏は語っています(「ゴーイング マイ ホーム」ウェブサイト)。
セリフまわし、身体の動かし方、目つき、表情、間合い。役者とは、設定された「役」という枠組みの中で、そのキャラクターを全身全霊を使って表現する、ドラマの構成要素の一つです。いわば、ドラマ世界という構築物を作りあげる、有用な一つの素材であり道具に過ぎません。もちろん、道具を使いこなす人は別にいる。家であれば、設計者であり大工です。
時には、枠を超えた輝きを、役者が自力で見せる瞬間もあるでしょう。しかしこのドラマでは、山口さんの他にも役者はみな、「普通っぽい」雰囲気を求められ、それにきちんと応じて演技をしていました。阿部寛も西田敏行も。山口智子だけではないはずです。
今回のドラマの視聴率をもって、「山口智子」という女優の力量に結論を出し、可能性をばっさりと切り捨ててしまうのはあまりに惜しい。そう感じるのは私だけでしょうか?
このドラマが多くの視聴者の関心を十分には惹けなかった理由とは何なのか? 「山口智子」というワンピースの外にも「戦犯」が存在してはいないでしょうか。