大きな医療機関や大学病院の医師にすり寄る製薬会社社員の低姿勢ぶり。医療ドラマなどでよく目にする光景だろう。
彼らは製薬メーカーのMR(医薬情報担当者)。自社の医薬品を売り込もうと、ときには他社との激しい値引き競争や医師への過剰接待を繰り広げる。大手大学病院では、いまだに製薬会社の社名と名前が入ったバッジを胸にしたスーツ姿のMRたちが、ときには通用口や医師の部屋の前に行列をなすことも珍しくない。
さる大学病院の関係者が証言する。
「研究論文や手術数の多い医師ともなると、病院内で権限もあるのでMRからの接待は日常茶飯事。飲み食いはもちろん、海外で学会があろうものなら旅費から現地の宿泊費、買い物代まですべて製薬会社持ちです」
そんな旧態依然の“接待攻勢”に待ったをかけようという動きはあった。製薬会社200社以上が加盟する「医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(公取協)」が、今年の4月から接待規制を強化したのである。以下のその一例だ。
■MRの営業活動での飲食/5000円まで
■自社の薬に関する講演会後の懇親会での飲食/2万円まで
■飲食の2次会や、ゴルフやスポーツ観戦など/禁止
しかし、これらの接待金額もあくまで自主規制の範囲内。9月にMR認定センターが公表した「MR実態調査」の結果では、接待の自主規制強化について「よい」と答えているのはMR47.1%なのに対し、医師はわずか24.7%しかいなかった。つまり、これまで通り甘い汁を吸い続けたい医師が減らない限り、接待はなくならないのだ。
さらに問題なのは、飲み食い以外の癒着である。
「製薬会社は研究費の名目で、医師に金銭を渡す慣習があります。もちろん使い道は自由。本来は医療機関や大学に入るべき金なのに、医師個人の教室や講座に入るケースがほとんど。その額は大きな病院ともなれば、年間に数千万円~数億円はあるでしょう」(大手製薬メーカーの元MR)
研究費の使い道についても、前出の公取協は公表を義務付けるなど目を光らせていく方針だが、抜け道はいくらでもあると話す関係者は多い。
今年は日本にMRが導入されて100年という節目に当たる。最終的には患者負担になる薬価が、医者への接待費用で膨れ上がっているのだとしたら、到底容認できるものではない。
「本来は病院がMRを一堂に集めて入札方式で購入薬を決めれば済む話です。でも、どの薬を使うかは、診療科の医師それぞれに委ねられていますし、多忙を極める医師のために、専門分野の薬の情報を逐一持ってきてくれるMRの存在は都合がいいんです」(前出・大学病院関係者)
医師への接待漬けで薬を売ろうとしていること自体、患者への背信行為であるのは言うまでもないはずだが……。